第5話 童貞ミーティング(その2)

 スポーツが苦手。

 大勢の人とコミュニケーションをとっての連帯行動が苦手。

 極度の恥ずかしがり屋で人と接することが苦手。

 中学生の時に朝礼で校長先生の話を立って聞いていると失神してしまったことがあるほどの貧血。

 そんな凛太郎でも部活というものを経験せずに高校生活を過ごすのは、さすがに味気なく思えた。


 恭介も控え目な性格ということもあるが、生来心臓が弱く、激しい運動はドクターストップがかかっているので文化部しか選択肢がなかった。


 文化部の中でも将棋なら少しできるかなという程度で同じタイミングに入部した二人。

 当時はそれでも二学年上に先輩が三人いて、毎日緩いながらも指導を受けて過ごした。


 しかし、夏の終わりにその三人の先輩が引退して、部員は一年生の恭介と凛太郎の二人きりになってしまった。

 部活動の体をなさなくなった将棋部だが、教頭先生が無類の将棋好きで、顧問として将棋部を存続させ、音楽室の隣のこの小部屋を部室として確保してくれている。

 恭介が部長で、凛太郎が副部長。

 教頭は何かと忙しくて、活動を見に来ることはほとんどない。

 こうなると、将棋は自然とポーズだけになった。


 もともと将棋に深い思い入れはなく、大した実力もないので、他の目がなくなれば、活動に熱が入るわけがない。

 それならわざわざ毎放課後に部室に来なくても良いようなものだ。

 だけど、隣の音楽室から聞こえてくる女子ばかりのブラスバンド部の活動を微かに感じながら繰り広げる他愛もない二人の会話が何とも言えず楽しくて、いつも授業が終わると来てしまっていた。


 そして、何気ない会話の中から二人にとって絶対最強の話題が見つかるまでに時間はかからなかった。

 クラスでは「底辺」を彷徨さまよう地味でおくてな二人だが、それでも共通して持っている興味は男子高校生普遍のテーマである「エロ」だった。


 きっと、全国の男子高校生の多くが童貞だろう(そこはさすがにそうであってほしい)。

 だけど、凛太郎と恭介は、現在、もちろん童貞で、この先も童貞のまま一生を終える可能性が極めて高いと自覚している。

 さらに言えば、いっそ童貞のままであっても良いと納得していて、色恋沙汰などない方が何かと楽だとさえ悟っている。

 そんな二人でも話題が自然とエロくなっていくのは第二次性徴を経験した男子高校生なら当然のことだった。

 あるいは、もっと活発で、女子と屈託なく話せる男子ならこうはならないのかもしれないが、恥ずかしがり屋でおくてな二人が閉鎖的な時間と空間を得ると、より熱心にエロ話に興じてしまうということもある。

 普段は寡黙に存在感を消している二人にとって、部室でのこの時間は非常に貴重で何物にも代えがたい有意義なものだった。


 二人の間にある将棋盤と駒はカモフラージュ。

 部活中のこのミーティングは将棋が強くなることとは無縁だが、罪悪感はなかった。

 狭い部室の中は治外法権。

 楽しくなければ部活じゃない。

 せっかくこの場を提供してもらっているのだ。

 活用しない手はなかった。

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