第4話 童貞ミーティング(その1)
「角って女っぽくない?」
全ては恭介のこの問いかけから始まった。
彼は盤上の角行をふわりと裏返す。「成ると馬に変わる。じゃじゃ馬と言えば女でしょ」
恭介の言わんとすることは凛太郎も理解できた。
女子の中でも、じゃじゃ馬と呼ばれるような活発な部類は最も苦手だが。
「なるほどね」
こんな軽いレベルでも、女性についての会話を誰かとするのは記憶にないぐらいに久しぶりだった。
この程度のことなのに羞恥心で凛太郎は体が熱くなり、指に余計な力が入る。
だけど、気心の知れた恭介となら、この話題を膨らませたいという欲求が、そっとスルーしたい気持ちを明確に上回る。
凛太郎はいつもより強い手つきで桂馬を動かした。「そういう意味では桂馬も女性かも。同じ馬だし、駒の動きがお尻を振って歩いてるように見える、かな」
将棋部の部室には凛太郎と恭介のほかに誰もいない。
だから、部活中でも好き勝手に無駄話ができる。
「見える、見える」
恭介は声を上ずらせ、うんうんと頷いた。「逆に、飛車はオスだよな。明らかに」
恭介は誘うように馬を飛車のライン上に移動させる。
「こうなるよ」
凛太郎は馬めがけて真っ直ぐに飛車を突進させる。
「うわっ。たろちゃん、エロい」
恭介が楽しそうに笑う。「俺のは、こんなもんかな」
恭介は香車を桂馬に向かってシュルシュルと動かした。
「さよならぁ」
凛太郎が桂馬を跳ねさせると、「そんなぁ」と恭介が不満そうに口をとがらせる。
そして二人で顔を見合わせて爆笑した。
将棋の駒を男と女に見立て、想像を働かせて動かす。
そんなままごとみたいなことで、すごくドキドキした。
馬鹿みたいだけど、興奮した。
盤上に、裸で絡み合う男女が見えた気がした。
きっと恭介も同じだ。
この日から始まった部室での猥談を恭介が「童貞ミーティング」と名付けた。
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