第3話 フェチ

「たろちゃんって何フェチ?」


 将棋の駒で山崩しをやりながら、恭介がいきなりエロい話題をぶっこんで来る。


 それにいちいち反応して、赤面してしまう自分が凛太郎は悔しい。

 が、すぐに気を取り直して、平静にどの駒が取れそうか検討する。


「強いて言えば、大人しい子」


「それは性格じゃん」

 恭介は大げさに脱力して椅子の背もたれに体を委ねる。「フェチってのは異性の体のどこか一部に魅力を感じるってことでしょうが」


「じゃあ、恭介君は何フェチなの?」


 恭介がエロ系の質問をしてくるときは、結局自分のことを語りたいのだと凛太郎は経験的に学んでいる。

 だから、適当にあしらいつつ逆に問い返してやればいい。


「俺は、やっぱり胸かな。あー、でも太ももも捨てがたいな。それと、長い髪も好きだし、腰のくびれって言うかお尻にかけてのラインもたまらないな。あとはね……」


「それって女子の体全部だから」


 止めないと恭介は延々と続けそうだ。


「違うって否定したいところだけど、そうなんだろうね。つまり、女子フェチってことかもな」


「女子なら何でもいいっていうようにも聞こえる」


 凛太郎の言葉に恭介は少し顔を引き締めた。


「たろちゃん、ちょっと聞いてくれる?」


 いきなりどうしたのか。

 凛太郎は少し怯んだ。


「な、何?」


「俺、正直言うと、それが女なら、どんなにデブだったり不細工だったり、もっと言えばけっこうなおばさんだとしても、Vネックの服の胸元とかスカートからのぞく太ももとかに目が行っちゃうんだよ。それで、そういう自分に嫌気が差すことがあるんだ。こんなの病的じゃないかな。俺、どうしたらいい?」


 頭おかしいのかな、と迷子の子どものような目で見てくるので、凛太郎は「僕も同じだよ」と慰める。

 実は凛太郎も以前から同じことを思っていた。

 やっぱり男なら共通して、そういう視線になってしまうということか。


「オスの本能って怖いよね」


 凛太郎が恭介に同調すると、恭介は急に元気を取り戻す。


「つまり、たろちゃんも女子なら何でもいいんじゃん」


「理性の備わっている人間はその事実を口にはしない」


「何だよ、それ」


 俺だけじゃないんだぁ、と大きく伸びをした恭介の足が机の脚にぶつかって、駒の山が一気に崩壊した。

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