無音、誓い

 夜。彼の運転する車に揺られ、流れる景色を見つつ、過去のことやこれからのことをぼんやりと考えていた。



 車は緩やかにブレーキが掛かり、やがて完全に停車した。

「どうしたの」

 運転席に座る彼に向き直りそう訊けど、俯きなにも答えない。

 (どうしたものか)と思い、少しの間フロントガラスに反射し映る彼を見ていた。



「あのさ、」

 唐突に彼が言葉を発した。私は言葉を返さず、空気感で続きを促した。


「一緒になってくれないか」

 消え入りそうな声だったが、彼ははっきりとそう言った。

 ーそれは。

 プロポーズ。どうして、今。

 私達は付き合ってすらいない。私は彼に好意を抱いていたが、ひた隠していた為にお互い好きあっている雰囲気はなく、彼が私を好いていると考えたこともなかった。



「好きなのは、俺だけだったのかよ」

 私が黙っているのを"拒絶"ととったのだろう。自嘲するように、彼は言葉を吐き捨てた。


「そんな訳ない」

 肯定も否定もせず、曖昧な返答しか出来ぬ私自身が嫌だった。



 言葉だけでは私の気持ちは伝わらないと思い、肩に頭を預け、さらに彼の手の甲に人差し指で軽く触れた。

 いつまでそうしていただろう。二人無言のまま、俯いていた。



 不意に彼の手が動いたと思うと、ゆっくりと私の掌をすくい上げ、各指の間に彼の指が差し込まれた。恋人同士がする、繋ぎ方。掌に温かな彼の体温を感じ、私の心中を愛おしさが埋め尽くした。

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