蓮葉女

 何も予定のない休日。フラフラと街に繰り出し、適当な店に入っては何も買わずに出て行くということを無意味に繰り返している。これといって欲しい物もないので、ウィンドウに飾られてある服や帽子、靴など目に入ったものを見に行く。ただそれだけ。

 こぢんまりとした店内に陳列された細々とした雑貨を一通り物色し終え、またのご来店お待ちしておりますと言う店員の、残念そうな声を背に外へ出た。

 太陽が頭上でサンサンと輝いており、目に眩しい。まだ、正午を少し過ぎた頃だ。

「次の店は、っと」

 ぐるりと周囲を見渡す。目に飛び込んできたのは、仲の良さそうに肩を並べ歩く男女の後ろ姿。

「... っ!」

 咄嗟にベンチ近くの花壇の裏へと隠れた。


 こんな所で何してるんだあいつ。いや、生活圏被ってるから会うのは仕方ない。それにしても。あれ?隣の男、また変わってないか?


 グルグルと思考が巡る。彼女を見かけたのは三月前、ここから少し遠くの中心都市、駅前スクランブル交差点。その前は確か八ヶ月前、某大型テーマパーク。

 見かける度に隣歩く人物が変わっている。これは気の所為ではない、事実。

 来る者拒まず、去る者追わず。あの女はそういう奴なのだ。



「好きになるって意味がわからない。多分、私は人を好きになったことがないんだと思う。」

 学生時代の長いようで短い昼休み、後ろの席の彼女が語り出す。

「へぇ」

 突然のことに驚き、読んでいた小説がビクリと震えたが、平然を装い適当な相槌を打つ。

「私に好意を寄せてくれる人と付き合えば、好きって感情も少しは理解出来るかなぁって。」

 悪びれる様子もなく言い放つ。

「だからって、男の渡り歩きは関心しないけどな。」

 小説に栞を挟み、後ろの彼女へと振り返り率直な意見を述べてみるも、彼女には届いていないようで、頬杖をつきながら前方に広がる黒板を何か遠くのものを見る様に見ていた。



「まだ馬鹿馬鹿しいこと繰り返してんのかよ」

 ヘナヘナとその場にしゃがみ込み、花壇のレンガへ軽く額を打ち付けつつ呟く。通り過ぎる人々の冷めた視線が身を切るようだ。

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