大人になるということ

 いつもの会社帰り、重い体を引きりながら家を目指す。二十一時を過ぎているというのに、キャッキャとはしゃぐ制服姿の恋人達とすれ違う。

 あの子と別れ、何年経つのだろか。もう、顔もおぼろにしか覚えていない。

「チョコとガム、一緒に食べるとどうなるでしょうか?」

 風に揺れるセミロング、悪戯に笑う口元。在りし日の彼女が問う。

 あの時の俺は全く想像が付かず、問いに答えることなくはぐらかした。

「ガムが溶けてなくなる、だろ。」

 今の俺ならそう、答えることが出来る。

 いつからか仕事や時間に追われ、日常に味がなくなった。それは面白味なのか、何と言うのかは知らない。ただ、会社と家との往復は、噛み飽きたガムの味に似ていると思った。

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