堕落

 紫煙しえんと男女の甘い香りが満ちる部屋の中で、何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのだろうか、と意志の弱さに肩を落とす。

 安らかな寝息を立て始めた女を起こさぬ様、静かにベッドを抜け出し鍵を掛け、まだ賑やかな街の雑踏に身を隠した。

 誰にも言えぬ思いを抱え、耐え切れず女になぐさめてもらうのは一等惨めだ。そんな事は痛い程、理解している。だがやはり、どうにも甘えが出てしまう。自身を受け入れてくれる存在が居ると実感出来たならば、言い難い幸福感や安心感に包まれるのだ。それが例え、表面的なだけのまがい物だとしても。

 身体を重ねる毎にみにくく哀れになりゆく心、地の底へ堕ちゆく足元。苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、闇だけが支配する路地裏に男は消えた。

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