第7話 私をマドモアゼルと呼ぶ人
「新しいノートはいいものだねぇ」
ほくほくとした顔で、賢者は羽ペンにインクを付けた。
「どう、いいんだい」
彼の自論を引き出すために、僕はしばしばこういった受け答えをする。
庭では真っ白なベッドシーツをはためかせる二人の姫君。
その様子をちらりと見て、賢者は揚々と口を動かす。
「いいだろう。まだ誰にも汚されていない真っ白なページ、ページ、ページ!
昨日作られたようない~い匂いがする紙、紙、紙...」
うっとりと紙の匂いを嗅ぐ初老を笑いを噛み殺しながら見ていた。
「この真新しいノートは、ここからなんにでもなれるのだよ」
鼻を離して、彼は語り続ける。
「悲しみの物語も、喜びの物語も、私の手で、人々の詩で、」
賢者は窓の外を見た。妹は風にあおられたシーツに好かれているらしい。
「誰への贈り物にもなれる」
今や彼の目はまっすぐ私に注がれている。
「...僕に贈ってくれるのかい」
彼の顔が思案を乗せた。そのあと、謙虚な色を写した。彼はこんなに豊かな表情の持ち主ではないのだが。
「いや、いや、君が嫌がらないのならもちろん、そのつもりだとも」
「次に君が書く物語な内容は、今は聞かないことにしようね。」
賢者は大きく頷く。
「それがいいだろう。」
もう、彼女は外にいない。ただ揺れるシーツが、彼女を探すだけ。
「ムッシュー、お茶が入りますわ」
大きな茶色い扉から、メイドが声をかけてきた。
「ああ、頂こう。マドモアゼル、宜しければ御一緒に」
悪戯っぽく笑う賢者に、彼の発言が分かっていたように彼女はゆっくりと微笑む。なんとまあ幸せそうな顔だ。
「ウィ、ムッシュー」
「沢山のお菓子と美味しい紅茶にここには花もいる。外はこんなに晴れているし、私のノートは新しい!さらにもう私の物語は送り主を持っているときた。今日は素晴らしい日だね。」
彼は目の中の表情を読み取らせてくれない。何時からか彼がいることが普通だが、いやはや彼はどうやって、そしてどうしてここに居るのだろうか。
「君は何時も、豊かな考えをする。」
私の返答に満足したように頷いて、彼はもうこの話をしなかった。
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