第6話 手向けの花は、バラがいい
「私のバラを10本も無駄にさせやがって!」
勢いよく家に帰ると、ベスト姿の初老の紳士がティーカップをもって振り向いた。
「おやおや、泣いているのかい。」
親友は、生前と変わらない声色で言った。
今日は10回目の失恋をした。プロポーズだぞ!まったく嫌になる。
「死んだのにまだ、私の家で紅茶を淹れる君に言われなくないのだが」
彼は困ったように笑って肩をすくめた。
「だって他に、することがない。」
「私のバラを11本も無駄にさせやがって!」
勢いよく扉を開けた瞬間、私は永遠の決別を理解した。
(久しぶりだな)
君の墓に来るのは。辺りを見回す。君の人望が建てた、この見晴らしのいい丘の上の墓。さて私はもう、ここには来ないのだろうか。君の墓は喋らない。そら勿論。
(生きていてくれれば)
何か変わったのだろうか。
⦅お前が殺したんだろ⦆
怖いくらいはっきりと震えた大気が、頬を揺らして私にそう言った。
なんだ
「ずるいな」
ではまた来ようか。
君が私を逃さない。
罪だけが、私と君を絶対に繋ぎ合わせてくれていた。
(お前の声が聞こえないのは、贖罪になれるのか)
「俗っぽいなぁ」
悪態をつきあうのは、我々らしかった。
戦争を生き抜いて、親友は幼馴染と結婚した。
やっとの思いで生きてきたんだ。
(俺たちだけのものだもんな)
戦場で犯した罪も、お前に俺がしたことも。
誰にも何も言わせないよ。
⦅俺が死んだら、その瞬間に、俺たちの罪は土に還るのだ⦆
それまでは、生きるしかないという呪い。
それだけを信じてる。
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