第5話 聞いてないなら、返事はしてくれ


先に起きるのはいつも彼だった。

コーヒーを淹れて、(彼は紅茶を飲む。コーヒーは俺のためだった。)

自分のマグカップをすすりながら

彼は大きなゴツゴツした手で

枕に顔を埋める俺の頭を

あんなに強そうな手で、想像できない程愛情深く、注意深く撫でた。

そうやって毎朝、起こしてくれた。


寒い、寒い朝だった。

あんな朝、なかった。

湯気が上がってない。

あの手もない。

時計は10:30。

ひどく、嫌な予感がしたんだ。


物音はなかった。

彼が隣で死んでいた。



何でもなかった。

何も、なかった。


ひどく突然に、彼は死んだ。


おかしいことなど何もない。だって、何だって言うんだ?

”人は簡単に死ぬからな”

葬式で、誰かが言った。

そうだよ。人は簡単に死ぬんだ。

だって一体今、地球に何人いると思ってるんだ?

いつか突然死ぬ人が、今日突然死んだだけだ。

一体、何がおかしい?


あの朝は、もうこない。


ただ、それだけ。

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