第3話 白雪姫
『頼む、Richilde。お前が死んでくれ』
私がこの世で一番美しいものでなくなった日、鏡が言った。おまえ、そんな声も出せるのね。怒りと悲しみに震える声が。
真っ黒な腕が鏡からぬっと伸びてきて、私の首を乱暴に締めた。ああ、わたしを、一番にしてくれるの?
おまえの一番に?
「一緒に、来てくれないの?」
彼の心の隙が、私の気道を片道だけ開けてくれた。辞世の句くらいなら読むことができる。
(最後まで、優しいのね)
その優しさは、いつも残酷だった。禁忌を犯せない真面目な木偶の坊。
(嘘をつけば、騙されてあげるのに)
出会った日を思い出した。町の魔女が城に魔法の鏡を売りに来たあの日。女は私に耳打ちをした。
『この鏡、女王に惚れています。』
ヒヒっと気味の悪い笑いを挟んで、彼女は続けた。
『しかし魔法のかかったものが人に恋をするのは禁忌』
『知恵を分ける魔法が嘘をつくのも禁忌』
『この鏡は、差し上げましょう』
彼女は、この結末を知っていたんだろう。
知っていなくとも、予想できただろう。
「置いていかないわ」
鏡の手は、いつまでも迷いで震えている。私はお前を迎えてからこの瞬間を待っていたのに?
酸素が足りなくて震える足で、鏡の支柱を蹴り倒す。 派手な音をたてて、この瞬間は永遠になる。
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