第4話 破壊と創造

原子番号333 フォルトゥーナ・エスト・ロトゥンダ。

地球上では存在し得ないその物質が今、ジェフリー博士の目の前に存在していた。


突然の恒星間天体による、破壊と創造。

新たに生まれようとする天体の中心に、フォルトゥーナのそれは在った。

炭素の籠、フラーレンケージに守られながら。



 博士は追い求めていたその存在を確認し、しばらくの間、動くことは出来なかった。

一時の間、目を閉じ深く俯いていたが、落ち着きを取り戻した博士は、ゆっくりと目を開け、身体を起こし、そして情報パネルを引き寄せると、新しく生成されたフォルトゥーナの分析を始めた。

 静かに、しかし確実にその真実へと近付いてゆく博士。

その分析作業をしながら、炭素の籠、フラーレンケージに守られるフォルトゥーナの分子構造を見た博士は、ふとある古い伝承を思い出し、そばにいたメーティスに話を始めた。


「その昔、人類が文明を創造する遥か過去に世界を支配していた文明が在ったそうだ」


「その文明は、高度な技術を持ち、空中に浮かぶ要塞から大地を支配し、その威力はいかづちで大地や空を割り、使者は自由に空を浮遊し、その文明の核となる要塞の中心には、巨大で七色に輝く空中に浮かぶ鉱石が存在していたと言う」


「その浮遊文明を支える全てのエネルギーは、その鉱石から得ていたそうだ」

「その要塞が在った大地の地中には、小さいながらも同じような鉱石が時折見つかり、非常に硬く、叩いても焼いても傷一つ付く事はなく、人々はそれを浮遊鉱石と呼んでいた」


「多分その鉱石は、ハイパーダイヤモンドに守られた、フォルトゥーナ、それで在ったのであろう」

「この分子構造を見ていると、そう感じてくる」


「フォルトゥーナはアイギスのシールドに使われている引力だけを発生させるテルキネスとは違い、それ自体で重力を発生させる、すなわち引力や遠心力などによる影響を排除し、周囲の状況に関係なく浮遊する事が可能で、時には他者を引き離し、引き込む事もある」

「その自ら重力を発生させる力こそ、アイギスのシールドに必要な能力で、シールドを点在せずとも、一つの固体で地球に影響を及ぼし、循環をもたらす事が出来る」


「かつての月と地球の関係のように」


「新しい、ルナの創造ですね」


「あぁ、そうだ、だから私は地球圏再生計画の主軸にフォルトゥーナの獲得を目的として置き、新しい月を存在させる事を目指していたのだ」


「フォルトゥーナで出来ている月なんて、どんなに美しいのでしょう」


「しかし、フォルトゥーナはその名前の由来通り、それを手にしたとして幸運で満たされる事は無い」

「空から支配する浮遊文明が滅亡したように、フォルトゥーナを操る事は難しい」

「浮遊文明は存在していた時期は短く、幾度かの王位継承があった程度で、大地の怒りと共に消え去ったそうだ」

「本来、ハイパーダイヤモンドは惑星のコア付近に存在している物、それが地表近くに現れたという事は、地下で大きな地殻変動が起きたのであろう」


「フォルトゥーナそれ自体を操ろうとすれば、それはその手から逃れてゆく」

「互いに影響し合い、共存する事が大切だ」

「その古い伝承は、ごく一部の人々の間で語り継がれ、小さな浮遊鉱石はその恐ろしい力から今では誰にも知られていない、祠の奥へと隠されてるそうだ」


「その祠に行ってみたいわ、博士」


「そうだな、地球へ戻り、そしてフォルトゥーナを実用化し、我々の地球を取り戻そう」

「しかし、その前にフォルトゥーナが安定するのを観測する事が重要だ、それ無しでは地球には戻れない」


「そうですね、得られたデータは先に地球に向けて、転送をしておきます」


 ジェフリー博士とメーティスはしばらくこの惑星系に滞在し、激しく光る渦を見つめ第三惑星の衛星誕生の観測を続けた。

 その後も渦の中心にあるフォルトゥーナは安定し、原子崩壊を起こす事は無く、時間の経過と共に渦は星の形を成してゆき、球体状に成った光は徐々に重力を発生させ、その重力の影響で第三惑星の大地は波打つような地殻変動が起きてきた。


「第三惑星の地殻変動も隕石由来から、衛星の影響に変化してきたな」


「衛星のコアにも炭素の層が出来始めてきました」


「そろそろか」


 未知の恒星間天体の衝突から発生したガスにより生成されてきた新しい衛星は、激しい光を放ちながら、その組成を徐々に安定させてゆき、そして微弱な磁性を発生し始めてきた。

 その磁性に引かれるように、恒星間天体の衝突で激しく揺れていた第三惑星の地軸の揺れが収まり始め、いつしか地軸は新しい衛星の公転と垂直になり、安定すると、


その光る二つの星の姿は まさに



地球 と 月



それと同一であった。


「既存の星も、新しく生まれてきた星に影響され、生まれ変わるか」


 ジェフリー博士は、新しく創造された星を見つめ、第三惑星の状態を確かめるべくモニターに目を向けた、その時、


「…メーティス」

「こ、これは何だ」


 博士が第三惑星の地殻奥にある異変に気が付き、メーティスを呼んだ。


 メーティスは、詳細の分析を始めたが、

「博士、何かの構造物ですが、しかし、それが何かは解りません」


「意図的な物質なのか…」

「もしくは、この第三惑星にもかつて文明が在ったのか…」


 博士が発見した何かしらの構造物は、大きく損傷をしてはいるが、作為的に作られた形状をし、地中深く地殻の中からその姿を現し始め、博士達はその構造体に脅威と共に、

心奪われてゆく。


ゴゴゴゴゴ…


「メーティス、一応調べておこうと思うが、どうだ」


「博士、現在地表温度は2,000度を超えており、強烈な熱風が吹き荒れ、地殻も安定していない為に、非常に危険な状態です。上陸はあまりお勧めはできません」


ガラッ… ガラッ…


「!」

「メーティス!」

「あ、あれは…」



 博士が見つめる構造物を覆う地殻の一部が更に崩れだし、

その奥にある、構造体の中に守られた、


未知の物体が、その姿を現した。



「と、トランスファー素粒子転送装置…   か」



「博士」

「あり得ない事ですが、あれは、トランスファーです」



 目の前の光景に愕然とするジェフリー博士、

その視界の中に、かつて博士が地球で開発した素粒子転送装置、トランスファーの残骸らしきものが現れた。



「こ、ここは地球なのか!」

「あっ… あり得ない!」

「50万光年も移動をし、確かに天の川銀河の中心を越えたんだぞ!」

「あり得ない!」

「あり得るはずは無い! そんな事!」


 博士は混乱しながらも、急ぎこれまでのデータを全て見返し、

確かに太陽系とは違う、銀河の反対側に来ている事を確かめた。


「では、何故だ!」

「なぜトランスファーがそこに在るんだ!」


「共鳴、なのかもしれません」


「きょ… 共鳴…」

「ポテンシャル障壁…、ポテンシャル障壁なのか!」

「あり得ない、銀河の中心からエネルギーが減衰せず伝わるなど」


「外からではなく、中からです」


「まさか…、銀河の中心だと…」


「はい、銀河の中心に何かしらの波が発生し、四方へ分散」

「同じ波形を保ったままで」


「 … 銀河の中心に  操られて  いる の か…」

「それが事実ならば」

「ち、地球はどうなる」

「今現在、地球も同じなのか」


「波形は同じでも、事象の結果が同じであるとは限りません」

「ただ、この第三惑星には月が存在していませんでした、私たちの地球のように」

「今は一刻も早く地球に戻り、状況を確認するべきかと」


 第三惑星の地殻奥から現れたトランスファー素粒子転送装置らしき物体、それが意味する事は何なのか、

 今、博士達ができる事は、一刻も早く地球に戻り、その状況を確認する事だった。


しかし


<ピィ!><ピィ!><ピィ!><ピィ!><ピィ!>

突如、けたたましく鳴り響く警告音、


「博士! 恒星から巨大なフレアが発生しました!」

「磁気嵐到達まで5分、アクシオン・ドライブもトランスファーも間に合いません」


「あの時の恒星間天体が、恒星と核融合を始めたのか」


「今回の磁気嵐は巨大で、この船体も我々の身体も、もちません」


「メーティス!」

「お前だけでもトランスファーし、地球へ戻れ」


 博士は、常にメーティスと各星系の中継拠点をリンクさせ、データリンクをリアルタイムで行っていた、フォルトゥーナのデータを送った時のように。


「博士!」


<Buuuu nnnn!>

博士は急ぎメーティスのトランスファーを起動させ、


「メーティス、しばしの別れだ」

「我々に終わりはない」


「博士!」


「ゆけ、メーティス!」


<ゴォォォ!>


「博…   !


メーティスの身体から意識が抜け、

その体が崩れ落ちる。



<ピィ!><ピィ!><ピィ!><ピィ!><ピィ!>


ゴォ!   …



「メーティ…






















恒星間天体が最後にもたらした、運命



恒星が発生させたフレアの勢いは凄まじく、

フレア圏内の星々は、激しく焼かれ、第三惑星も、新しく誕生した衛星も同様に、その磁気嵐に巻き込まれてゆき




そして、また 宇宙に静寂が訪れた




いつの日か目覚める、その時の為に




破壊と創造をもたらしながら




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遥かなる星々の物語 第三章 「 相似惑星 」 END

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