第3話 フォルトゥーナ・エスト・ロトゥンダ

突如として現れた未知の恒星間天体


 その恒星間天体と思われる物体は、通常の彗星が進入する速度を遥かに超え、強烈な速さで惑星内に進入し、第四惑星の大地をかすめ、黒い色をした未知の惑星を蒸発させ、更に第三惑星をも破壊し、その勢いのまま惑星系の中心にある恒星へと飲み込まれていった。


 天体が通過した後には惑星達との衝突で発生した無数の破片とガスが対流し、第四惑星の周辺では破片が飛散しながら、その周囲を回り始め、そして大きさと周回する速さが異なる破片同士が衝突と融合繰り返すと、徐々に光を放ち始めながら塊となり、その塊が互いの引力に引かれ寄り集まるとガスを巻き込みながら赤々と滾る衛星へと成長し、そして残った破片の一部は第四惑星の引力に引かれると、隕石の雨となり第四惑星の大地へと降り注いだ。


 その第四惑星の次に衝突し、蒸発した黒い色をした未知の惑星は、巨大なガスの塊となりながら天体が衝突した勢いに引き込まれ、渦を成しながら、その多くは第三惑星の方向へと流されていった。


 突然の出来事に、ジェフリー博士は系外へ退避する事は間に合わなかったが、そのダイナミックな光景に心奪われ、その場から離れられなかった。


「素晴らしい…」

「恐ろしい現象ではあるが、宇宙が複雑化し、創造されてゆくのが感じられる」


「後は、あのガスが何処に移動し、何に変化するのかが気になりますね、博士」


「そうだな、マスター・メーティス」


 博士の傍で同行をしている、ヒューマノイドのメーティスが博士に言葉を掛けた。

 彼女は博士専属のヒューマノイドで、博士が若い研究者だった学生時代に、自らプログラムし育て上げた博士オリジナルのヒューマノイドであり、その能力は地球での最高位であるマスター・ゼウスを凌ぐとも言われている。


「博士、第三惑星の方へ流れているあのガスは、多分、第三惑星の衛星になりますね」

「その生成過程での引力に引き込まれる前に、中心付近の物質を採取しておきましょうか」


「そうだなメーティス、新しい物質が生成されているかも知れないしな」


 第三惑星の周囲に辿り着いた巨大なガスの渦は、輝きを放ちながら第三惑星の周囲を囲み始め、第四惑星と同様に、第三惑星の周囲に浮遊している物質を引き寄せ、衝突と融合を繰り返し、その一部が赤く滾り始めると徐々に引力を発生させ、幾つもの衛星の塊を生み出していった。

 その赤く滾る塊を目指して、博士とメーティスを乗せた探査船が第三惑星に近付いてゆく。


ゴォォ…


 博士達は衛星の塊の中でも、ひと際大きく、強烈な光と、巨大な渦を成している塊の中心に無人機を向かわせると、その引力に引かれながらもサンプルを入手し、


「よし、急いでこの宙域を離脱する」


ゴォォォ!


 博士達を乗せた探査船は第四惑星の後ろにある小惑星帯アステロイドベルトへ移動し、そこから第三惑星の渦を観測し始めた。

 第三惑星で発生した衛星の塊達は、その衝突と融合を繰り返し、巨大な衛星へと成長しながら徐々に強力な引力を発生させてゆき、その引力によってアステロイドベルトにある岩石も引き寄せながらその巨大な衛星と融合し、引き寄せられた岩石の一部は、巨大な衛星のスイングバイにより、第三惑星へと落ちてゆき地表に降り注いだ。

 その巨大な衛星が回る、赤く佇んでいた第三惑星は、その隕石による衝撃で徐々にその表情を変化させ、大地が沸き立ち、マントルが吹き上がり、様々なガスが惑星を覆い尽くしてゆき、地軸を激しく揺らしながら膨張をし始めてきた。


「…地球の   誕生なのか…」

第三惑星を見つめながら、感慨深げな声色で小さく言葉を紡ぐむ博士、


「えぇ…  素晴らしい光景です 博士」

メーティスは博士に顔を向けそう応えると、博士の目の前に情報パネルを差し出してきた。

そのパネルに表示された内容を見た博士は、言葉を失い、


メーティスに ゆっくりと顔を向けた。


「そうです、博士」

「新たな創造、炭素と結合した、フォルトゥーナが見つかりました」


 博士とメーティスが見つめるパネルには、炭素の籠フラーレンケージの中に、博士が探し求めていた重力を発生させる重元素、フォルトゥーナが収まっていた。


「た、炭素のフラーレンケージがフォルトゥーナの原子崩壊を抑えているのか…」


「はい博士、あの第三惑星にあった炭素が、恒星間天体内部に圧縮されていたフォルトゥーナと結合し、この宙域でも存在できる新しい元素を創造したのです」


「あぁぁ… 」

「百年に及ぶ探索をし、50万光年を超える距離を移動した、  そして… そして… 」

「ようやく…」


 今、その長きに及ぶ探索の果てに、博士が探し求めていた重力を発生させる重元素、

原子番号333 Fortuna est rotunda.(フォルトゥーナ・エスト・ロトゥンダ)が、

博士の手の中に静かに収まった。


 金属で出来た博士の身体は涙を流す事は出来なかったが、その溢れる感情を抑える事は出来ず、その身を屈め震わせながら、しばらくの間、動く事が出来なかった。


 運命に翻弄されるかの如く、希望を与えては消えて行ったその物質は今、炭素の籠に収まり静かに、確実に博士の目の前に存在していた。

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