第2話 シリウス探査
無音の黒い渦を見つめながら、アルフレッドがマクシミリアンに声を掛けた。
「マックス、そろそろ始めるぞ、皆を集めてくれるか」
「OK!」
マクシミリアンは、アルフレッドに応えると、左手の手のひらを広げ、メッセージパネルを開き、メンバーに集合の合図を送った。
そして、二人はブリーフィングルームのテーブルへと移動し、メンバーが集まるまでの間、また会話を始めた。
「なあアル、ブラックホールの中心に何があると思う」
「さぁな、あの中では時空を超えて、過去にも未来にも行けるらしいからな、あそこに行って音楽家を目指していた頃のお前に会ってみたいな」
「ずいぶん昔の話だな、だが音楽は止めてはいない」
「ヴァイオリンさえ転送できれば、毎日だって弾いてるさ」
「電子はダメなのか」
「電子でも良いけどな、ただ楽器も身体も機械じぁ感覚が伝わらない」
「まぁな、このミッションが終わったら、みんなでセッションでもするか」
「あぁ約束だ」
しばらくの間、二人は懐かしい話題で会話を楽しむと、マクシミリアンに呼ばれたシリウス探査隊のメンバーが、ブリーフィングルームに集まってきた。
アルフレッドは、メンバー一人一人に声を掛け、少しの間、和やかな雰囲気で談笑すると、良い頃合いで、マクシミリアンがアルフレッドに声を掛けた。
「それで、今回のアプローチはどうする」
「そうだなマックス。ありがとう」
アルフレッドがマクシミリアンに礼を言うと、頭部に光るグレアリング・アイが輝き出し、それを見たメンバー全員が、身体をテーブルに向け、少しの静寂が過ぎると、アルフレッドはゆっくりと話を始めた。
「前回までは、ブラックホールを観測する事が目的だったが、今回は、その誕生のプロセスを検証しようと考えている」
「何か仮説があるのか」
「俺の仮説は、この惑星系は三つの惑星系を持つ3兄弟だったと考えている」
「実際、シリウスBは50年周期でシリウスAの周りを公転しているし、このブラックホールもシリウスAを中心に公転している」
「その軌道をトレースすると、シリウスAを中心に、シリウスB、ブラックホール、仮にそれをシリウスCとするが、そのBとCがAの周りをクロスで公転している事が解った」
アルフレッドがウォーター・パックから水滴を部屋の中に出す。
「惑星系が誕生するのに、ガスの回転軸が一つとは限らない、無重力の中に放り出された水滴のように、丸くあらゆる方向に回転するのと同じだ」
「ただ、シリウスCがブラックホールに変化したプロセスが今一解らない」
「ここ2年、この惑星系を調べて、まだ調べ切れていないのが、シリウスAとシリウスB、そしてこのブラックホール」
「解っている事は、恒星シリウスの内部はハイパー・ダイアモンドの内部コアを持ち、ヘリウム8とネオンのガス帯を持っている事だけだしな」
マクシミリアンが応える。
二人の話を聞いたエレンが何かに気が付き、マクシミリアンに顔を向ける
「ネオンと言えば、この惑星系はネオンを高濃度で含む惑星が多いわ」
「それぞれの惑星系に1から3個ほど、恒星からの距離もほぼ同じくらい」
「何かブラックホールの誕生に関係しているのかもな」
「とりあえず、シリウスA、B、それとネオンが多い惑星の探査をすればシリウスCが黒い渦に変化した何かに近付けるかも知れないな」
「よし、俺とトーマス、ヴィッカリー博士がシリウスAとB、二つの恒星を調べる」
「マクシミリアンとエレン、サンダース、イエーガーはそのネオンが多い惑星を調べてくれ」
シリウス探査隊は、探査目標を定め、活動を開始する事を決めた。
アルフレッドの恒星探査チームは船内から、高温高圧の恒星を観測、調査し、
マクシミリアン率いる、惑星探査チームは2班に分かれ、マクシミリアンとサンダースのシリウスA班、エレンとイェーガーのシリウスB班に分かれ、小型探査機でそれぞれの惑星系に向かって行った。
∫
「アルフレッド、ちょっと良いか」
探査船に残ったトーマスが、隣で作業をしているアルフレッドを呼んだ。
「どうしたトーマス」
「初期調査である程度は解っていたんだが、コアの形がやっぱり異常だ」
「コアに複数の突起が生成されている」
「結晶構造か」
「わからんな、自然物とも人工的な物とも言える」
「ヴィッカリー博士はどう思います」
「今の段階では何とも言えないが、興味深いのがAとBのコアが質量も形状も同じ事を考えると、やはりこの二つの恒星は何かしらの関係性がありそうだ」
解析モニターを見つめるアルフレッド達。
すると、その傍に探査のオペレーション管理をしている、ヘルメスが近付いてきた。
「アルフレッド」
「どうしました、ヘルメス」
「サジタリウス探査チームのNo.4が新惑星系を発見したそうです」
「なるほど、あそこは数千もの星々が密集する比較的に若い星雲地帯だしな、我々が知らない惑星系や、星々が存在しているはずだ」
「ヘルメス、また新しい情報が入ったら教えてくれ」
「わかりました」
サジタリウスの情報を伝えるヘルメス、彼女もヒューマノイドとしてこの探査に参加をし、様々なサポートをしている。
その一つが、組織全体の情報ハブになる事であり、天の川銀河に散らばった幾つもの探査チームの情報を繋ぎ伝える事で、新しい探査方法の発見や、危険情報など探査作業全体のスパイラルアップに貢献している。
しかし、ただ一つ、伝えられない事があるとすると、
未来の事は伝える事は出来なかった。
その頃、惑星探査に向かったエレンのシリウスB班でも動きがあった。
エレンとイェーガーは、探査船SI-N3から約2憶万キロ離れたネオンの含有量が高い惑星に着陸をしていた。
この惑星は複数の場所から、波長の長い赤外線を放出しており、その中で最も多くの赤外線を放出している小高い丘を発見すると、二人は船内からその丘を中心に、調査を始めていた。
ゴォォ…
<ピ> <ピ> <ピ> <ピ>
「…どうも信じられん」
「液体ネオンが一つの場所に集中しているんだ、なんて言うか砲弾型の塔と言うべきか」
顎に手を当て、モニタリング・モニターに表示されるレポートを見ながら、イェーガーが呟いた。
「フラクタルの集合体ね、ヒマワリの種が集まって自然の造形を成しているのと同じで、これも砲弾型の形状が集まって、上空に向かって全体の形状を生成しているんだわ」
「自然に出来たものなのか」
「まだ分からないわ、フラクタル構造は核としては最高の強度を持つ形状だし、誰しもが使いたくなる形状よ」
「ただ、これが何なのか…、 採取して詳細を調べてみる?」
エレンは、そのイェーガーが座る椅子に手を置き、レポートを見ながら、自らの推測を話し出す。
「採取はアルフレッドの判断を待ってからにしよう」
「とりあえず近くに行ってみるか」
エレンとイェーガーは探査機から降り、砂に埋まった砲弾型の塔へと向かって行った。
ゴォォォ…
ォ ォ ン …
硬い岩肌の上に、パウダースノーのようなきめ細かい砂が風に舞い、絶え間なく吹く風が、岩と砂に当たりながら、低音で響く、何か物悲しげにも聞こえる音を奏でている。
―ザッツ
大きな波長を放出している丘の上に辿り着いた、エレンとイェーガー。
…
「… う 美しい… 」
エレンとイェーガーの目の前には、深い鉛色に輝く、人の大きさ程の塊が幾つも連なり、それらが空高く積まれ、その整然と積まれた様相は、まるで巨大な要塞の様であった。
ゴォォ…
<ピ> <ピ> <ピ> <ピ>
「エレン、船内からだと測定できなかったが、なにか微細で複雑な周波数を発しているぞ」
「データベースにはありそう」
「解らないな… ヘルメスに詳細を解析してもらうか」
解析モニターを見ているイェーガーを横目に、何かに引かれる様に、鉛色の塊に近付くエレン…
「そうね…」
エレンがゆっくりと手を上げ、
液体ネオンの表面に
ふれた瞬間。
「はっ…」
エレンはその場に倒れ、意識を失ってしまった。
「エレン!」
ゴォォ…
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