第一章 「 人型の分身体 」

No.1 「スター・ゲート《運命の扉》」

第1話 金属の身体

ゴォ・・・   ン        ゴォ・・・







ピッ








ピッ







ピッ



ピッ


≪ Buuuu nnnn… ≫





うっ…





さ…   寒い…



か、体が…  凍えるように   寒い…



あぁ…   あたまの中を  かきまわされるような…



ひどい目眩だ…



… 眠っていたのか…



こ…  ここは…



Shaaaaaa…      n.


『 Launch the Ardy 』



 … 暗い闇の中にいるのであろうか、自分の感覚が漆黒の世界に漂っている。


 何が起きているのか、ここが何処なのか、自分は生きているのか、それともこれは夢なのかさえ分からなく、ただ闇だけが全てを覆い尽くしていた。


 しばらくの間、その闇の中を漂うと、黒色の一部が淡く光り出し、


――――――


 一気に私の視界を覆い尽くしてゆく。


 周囲が黒色の闇から、眩いばかりの輝く白い世界へと変化し、その光を遮る事が出来ない私は、何が起きているのかさえ理解が出来ぬまま、唯々、白い世界の中を漂い続けた。


…ゆ、 ゆ め なのか


 しばらく無音の光の中に漂うと、遠くから何かの音が聞こえ、こちらに近付いてくる。


…あぁぁ っ


 すると突然、何かの映像が怒涛のように押し寄せ、液状化した映像の荒波が、白い世界と私の意識を一気に覆い尽くすと、熱量を持ったダイナミズムの映像は、体の中を流れてゆき、そしてゆっくりと温めてゆく。


 周囲には様々な映像が流れ、意識はその中を泳いでいる。

 映像の波を越えては、新たな映像が押し寄せ、それを繰り返してゆくと、いつの間にか意識を失ってしまった。



 どの位の時が経ったのだろうか、暗闇の奥からぼんやりと、何かの陰影が浮かび始めてきた。

 何がどうなっているのか、理解が出来ない。

 意識が朦朧もうろうとしながらも、その陰影の方へと意識を向ける。


 すると、


ガチャ…

 凍てついた薄暗い暗がりの奥から、何かの音が聞こえてきた。


だ、誰かいるのか…


 そのよく見えない暗がりの奥に意識を集中し、不鮮明な視界の先に、黒い物体が動き出したのを感じると、黒い物体は鈍い音を立てながら、周囲の光を薄っすらと反射させ、徐々に大きくなってゆく。

 そして、


ガチャ、 ガッ ガ…

「 ぁぁ… 」

「 …相変わらず  嫌な目覚めだ… 」


 誰かの声が聞こえる。誰の声だ…


 聞き覚えのある声。ただそれが誰なのか、思い出せない。

 船酔いのような重苦しい思考を何とか動かし、今の状況を理解しようと、周囲に意識を集中する。

 すると、徐々に意識が鮮明になってゆき、体の感覚と共に記憶が戻り始め、ここが何処なのか、なぜ自分がこの空間にいるのか、理解してゆくと、自分が生きているであろう事を確信し、そして、


この空間で目覚めた、その 目的が蘇ってきた。


「 おい… 」

「 マクシミリアン、サンダース… 」

「 起動したか 」


「 …あぁ うるせぇよ… おきてるぜ アルフレッド」

 体を鈍く光らせ、こちらに顔を向ける、マクシミリアンが見えてきた。


「他はどうだ」

「マクシミリアン、起動しているならマスターのチェックを頼む」

「元素レベルは手を抜くなよ」

「了解だ」

「ったく、毎回こんなメタルの体じゃ寝起きも最悪ってもんだ」

「生身の体で2,000Pa(パスカル)に耐えられれば、そのまま来ても良いんだぜマクシミリアン」

「俺の鍛えた体なら一万でも余裕だ」

 マクシミリアンと談笑できるまで意識が戻ってきているのを感じながら、ゆっくりと自分の体を見渡すアルフレッド。

 そして自分の指先一つ一つに目を凝らしながら見つめ、ゆっくりと動かすと、マクシミリアンと同じように、自分の体も周囲の光を鈍く反射し、血の通った体ではない、金属メタルの体になった事を理解した。

 アルフレッドは、まだよく動かせない体を慣れさせるように、しばらくその場でうつむいていると、奥の暗がりから、柔らかくマニピュレータが動く音を発しながら、別の何かが近付いてくる。

ガチャ、ガチャ、ガチャ…


「アルフレッド… 全員起動したわ」

「ありがとうエレン」

「きみは美しいよ、メタルの体でも心は優しいままだ」

「お世辞でもうれしいわ、アルフレッド」

 頭部で光る、蒼い色のセンサーグレアリング・アイを淡く光らせながら、まだ上手く動かせない体を、ゆっくりとだったが上手に動かし、エレンが近付いてきた。

 アルフレッドは、エレンの助けもあり、徐々に体を動かせるようになると、立ち上がり、周囲を見回しながら、その場にいるであろうメンバー達に声を掛けた。


「よし、全員、起動しているな」

「Ardyとのマッチングチェックを行う、ロード・ロスは所定の手順でリ・ロードしろ」

「マスター・ヘルメス」

「全員のマッチングチェックをお願い出来ますか、それと起動フェーズを通常モードまで進めて下さい」

 メンバー全員がふらつく中、我々のサポートをするヒューマノイドのマスター・ヘルメスだけが唯一、滑らかにそのボディを動かしていた。

 彼女は、この宇宙に意識を保存する、人類が生み出した新たな生命体である。


「OK, Master Alfredo」

「それでは皆さん、これよりArdyとのマッチングチェックを行います」

「それぞれのクレイドルに座ってください」


 薄暗い船内で、鉛色に光る金属の体をした人型の分身体、アーティフィシャル・アーザー・ボディ(Artificial other body / Ardy)、通称アーディ達がオリジナルのマスターデータから意識を転送し起動を始めた。

 起動間もない彼らは、Ardy(人型の分身体)とのマッチングが不安定である為に、転送直後にデータの転送ロスが無いか確認をする必要があり、マスターデータと転送データを照合する、マッチングチェックと呼ばれる照合作業が必要であった。


Pi  Pi  Pi  Pi  Pi

Verifying the database. …


No.1, Alfredo Griffin(アルフレッド・グリフィン)

No.2, Maximilian Schmitt(マクシミリアン・シュミット)

No.3, Thomas Woodward(トーマス・ウッドワード)

No.4, Bernard Sanders(バーナード・サンダース)

No.5, Ellen Streit(エレン・ストライト)

No.6, Bernard Jaeger(バーナード・イェーガー)

No.7, Ashton Vickery(アストン・ヴィッカリー)



I have confirmed that this preliminary work is complete and precise.


美しい旋律と共に、主幹システムの声が船内に響き渡った。


「皆さん、問題なく生成されました」

「オリジナルへのタグ付けもしましたが、各タグへのリンクはいかがいたしましょうか」

「マスター・ヘルメス、リンクは私だけでOKです。オリジナルとのリンクだけ、お願いします」

「了解しました」

「よし、全員揃っているな」

「ブリーフィングを始めるぞ」


 アルフレッドが、金属で出来たクレイドルに座るメンバー達に声を掛けると、マッチングチェックを終えた鈍い光を反射するArdy達七名が、その身をゆっくりと持ち上げ、少しふらつきながら、その空間の中心にあるテーブルへと歩き出してゆく。


 彼らが空間の中央にあるテーブルに辿り着き、そこに設置してある椅子に座ると、

それを確認したヘルメスが、テーブルの上部へ半透明のモニターフローティングモニターを表示させた。

「ありがとうございます。マスター・ヘルメス」

 Ardy達の中心にいるリーダーのアルフレッドがヘルメスに礼を言うと、その場にいるクルー達に顔を向け、頭部のグレアリング・アイマルチセンサーを青白く、アイスブルーに発光させると、少し間を置き、話し始めた。


「我々は、地球から約七千光年離れたサジタリウス・アームの星雲地帯の拠点、サジタリウスNo.4に探査チームとして転送されてきた」

「我々の目的は、この星雲地帯の周辺宙域探査と、新たな物質、元素の発見を目的とし、それを地球に持ち帰る事を求められている」

 ヘルメスがモニターに地球を映し出す。

「この赤い色に染められつつある星が、地球だ」

 そのモニターにはかつて水をたたえた青い色に輝く美しい星ではなく、赤茶色に変色し、海は干上がり、分厚い雲に覆われた星がそのモニターには映し出されている。

「俺達は、この地球を救う重元素をこの宙域で見つけ、それを持ち帰り、地球を再駆動させる」

「それが我々に課せられたミッションだ」

 アルフレッドがそのミッションを確認するように、メンバー全員の顔を見た。


「幾つもの星雲を調べ、それに出会う事は無かったが、この若い星雲地帯なら宙域圧力も高く、出会える可能性は高い」

「マスター・ヘルメス、この宙域の情報を出して頂けますか」

「はい」

 ヘルメスがモニターにサジタリウス・アーム星雲地帯の情報を幾つか表示させる。


「ここ、サジタリウス・アーム星雲地帯は、数千もの星々が密集する、ガス状星雲地帯であり、非常に宙域圧力が高く、無数の星々が引き合う重力と、天の川銀河の中心に引き寄せられる力が合わさり、2,000Paを超える超高圧の空間を形成している」

「そんな高圧の宙域であるが故に、宇宙の密度は濃くなり、見えざる物質が顕在化し、それに伴い未知の新たな元素が生成されている可能性が高い」

「しかし」

 アルフレッドはゆっくりとクルー達の顔を見渡す。


「この宙域には、重大な問題がある」

 クルー達の視線が、アルフレッドに集中する。


「それは、時間だ」

「ここは、その圧力の影響で光や空間は歪み、時の流れも遅くなる」

「この地での二ヶ月が地球での一年に相当し、時間や空間、原子や物質の特性も変化する、地球の常識とはかけ離れた世界を形成している宙域だ」


「だから、作業は手早く、元素のチェックもするんだろ」

 マクシミリアンが応える。


「あぁ、そうだ、この宙域の密度も恒久的ではない、今だって変化している可能性はある」

マックスマクシミリアン、船体のメンテナンスは怠るなよ」

「組成変化だろ、わかってるよ、アルアルフレッド

「それぞれ、ミッションは理解しているな」

 クルー達が頷き、


「よし、ミッションは六ヶ月を予定している」

「始めるぞ」

 Ardy達は立ち上がると手を叩き合い、ミッションの成功を願うと共に、その連帯感を高めた。


 地球から遠く離れた約七千光年先のサジタリウス・アーム星雲地帯で目覚めた七人の研究者達、彼らはこの星雲地帯の周辺宙域探査と、新たな物質、元素の発見の探査を目的にこの地に探査チームとして転送されてきた。


金属で出来た体をその身に纏い、超高圧の世界に

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