第38話 洗いっこ

 目が覚めると隣には茜が寝ていた。そういえば、昨日シた後そのまま寝てしまったんだなということを思い出す。


 半分寝ぼけたままでボーッと茜を見ていた。すぅすぅと寝息を立てている茜は可愛らしく、普段よりも幾分あどけなく感じた。布団から手を出して、茜の頬を指先でつついてみると、ふにっとしていて、柔らかでほどよい弾力が感じられる。


 それが無性に面白くて、何度か指でつついてみる。しばらくそうしていると、柔らかな唇が目に着く。あの唇に触れたい。そんな欲求が唐突に頭を支配する。そうなれば、後の行動はもう決まっていた。


 手で茜の後頭部を軽く抑えて、その柔らかな唇にキスをしようとゆっくりと顔を近付ける。あと五センチで唇に触れる、といったところでパチリと茜の目が開く。


「何やってるの?」


「いや、キスしようと思って……」


「歯磨きする前だからやめて」


「俺は気にせんのに」


「私が気にするんだよ。でも……、歯磨きした後ならいいよ……?」


 茜は俺から視線をそらしつつ、そんなことを言い出す。はい可愛い。反則ですよ、これは。そんなことを言われてグッとこないわけがない。俺はほぼ反射的に茜を抱きしめていた。


「ひゃっ……、急に抱きしめないでよ……」


「お前の可愛さが悪い」


「そんなこと言われても……」


 布団の中でお互いの肌が触れ合う。お互いに服を着ていない状態のため、体温が直に伝わってくる。けどこれは温かいと言うよりは……。


「「暑い!」」


「今九月中旬だよな? なんでこんな暑いんだ」


「エアコンついてなくて窓閉め切っている上に、今日の気温が高いからだよ。今昼過ぎだし」


 さっきから気にしないようにしていたが、寝汗で体はべとつき不快だ。熱がこもりすぎて、流石にイチャつくことも出来ない。シャワーを浴びてスッキリしたい。


「シャワー浴びるわ」


「あ、ズルい。私も」


「え? 一緒に入んの?」


「それ以外無いでしょ」


「お前着替えは?」


「持ってきてある」


 用意周到なんですね……。一瞬、全俺の夢、彼シャツが期待できるかと思ったけれどそんなことは無かったぜ。あれ考えた奴天才だよな。


「じゃあ一緒に入るか。風呂沸かす?」


「シャワーだけでいいよ」


 俺たちはベッドから出ると、いそいそと風呂場へと向かう。昨日さんざん見たとはいえ、一糸まとわぬ茜の姿にはなかなかクるものがあった。


 風呂場に入ると、茜がシャワーを出し始める。シャワーってお湯が出るまでに少し時間がかかるんだよな、なんて考えていると思いっきり冷たいシャワーをかけられる。茜はニマニマと悪戯っぽい表情をしていた。


「冷たい冷たい!」


「あははははっ」


 冷たさに悶える俺の様子を見て、茜がケタケタと笑う。次第に水の温度は高くなり、お湯へと変わっていた。助かった……。


「茜後で覚えておけよ」


「もう忘れたよ」


「そういうこと言っていいのか?」


 俺は仕返しに茜の横っ腹あたりをむにっとつまむ。茜は痩せている方だが、痩せすぎているわけでもなく、女性らしい柔らかな感触がある。


「ひゃわっ! くすぐったいてばぁ……」


「さっきのお返しだよ」


「ごめんって、シャンプー使っていい?」


「いいよ」


 茜はしっかり髪を濡らすと、そのままシャンプーで髪を洗い始めた。俺も髪洗おうかな。そうしてしばし、無言の時間が流れる。


 もっと恥ずかしくて気まずくなるかと思ったけど、意外にそんなことは無かったな。まあ、昨日全部見てしまったからっていうのはあるんだが……。


「りっくんは髪が短くて洗いやすそうだね」


「そうだな」


 いつの間にか髪を洗い終えていた茜がそんなことを言い出す。確かに俺は黒髪短髪だから、特に手入れも必要無いし楽なもんだ。


「茜の髪はサラサラだよな」


「そうだね。触って良いよ。あとついでにリンスして」


「自分でつけるのが面倒になっただけだろ、それ……」


 まあ髪を触れるのは本望なので、大人しくリンスを手に付けて、茜の髪に揉み込んでいく。その髪は予想通りというか何というか、サラサラとして滑らかだった。俺の硬い髪質とは違って随分と柔らかい手触りだ。


「どんなもん?」


「そんな感じでいいよ。ありがとりっくん」


 茜はシャワーでリンスを流していく。うーん、濡れ髪にうなじがのハーモニーがエロい。裸見たから今更どうということでも無いはずだが、良いな……。


「あと背中洗ってくれない?」


「それは俺も頼みたい」


 俺はボディタオルに石けんをつけて泡立てる。茜の背中に当てて、そのまま優しくこすっていく。白磁のような傷一つ無いきめ細やかな肌だった。


「痒いとこないか?」


「無い無い。背中洗ってもらうとめっちゃ楽だね」


「あんまし手が届かないからな」


「じゃあ、さ……。これからも一緒にお風呂、入らない……?」


 茜の思わぬ提案に動揺し、持っていたタオルを落としてしまう。え? やだ、茜昨日から積極的すぎない? 俺より数倍男らしいぞ? 俺もしかして茜に負けてる?


「な、何か、言ってよ……」


「お、おう、魅力的な提案すぎて思考が飛んでたわ。ぜひ、お願いします」


「じゃ、じゃあ、お風呂場に私のシャンプーとか置いていい……?」


「も、もちろん」


 そうして、しばらく気まずい雰囲気が流れる。お互いの吐息の音と、体をタオルで擦る音だけが浴室に響く。居たたまれねぇ……。なんとか話をしようと、茜に話題をふる。


「そ、そういえば、茜はあの後大丈夫だったか? 痛いとことかは?」


 どうして俺はこの話題を持ち出したのか。余計に居たたまれなくなるだろ。昨日の夜の出来事がフラッシュバックしてしまう。


「だ、大丈夫だったよ、りっくん優しくしてくれたし……」


「そ、そうか」


「あ、そろそろ私はいいから、交代するね――」


 俺に背中を向けていた茜がくるりと向きを変えて俺と向かい合う。あ、まずい。今こっちを向かれると……。


「――わあ……。え? なんで戦闘モードになってるの?」


 俺の大きくなってしまったある一部分を見て、茜はそんなことを言う。戦闘モードって言い得て妙だな。


「……昨日のアレ思い出しちゃったんだよ」


「そ、そうなんだ……」


 恥ずかしいので俺はとっとと向きを変えて茜に背中を向ける。生理現象だから仕方無いことなんだけど。この微妙な雰囲気、どうしてくれよう。


 茜はその後は特に気にした様子も無く、俺の背中をゴシゴシと洗ってくれていた。意外に力が強くて、気持ちいい。


 その心地良さに身を任せていると、不意に背中をこする手が止められる。どうしたんだと思った次の瞬間には別の感触が俺を襲っていた。


「ちょ、ちょっ、茜さん⁉」


「何かな?」


「何って……、思いっきり当たってるんだが……」


「当ててるんだよ」


 背中に押し当てられたソレは凄まじかった。『むにゅう』という擬音語がそのまま頭に再生されるような、極上の柔らかさ、そして確かな質量。これは非常にまずい。茜さん! まずいですよ!


 背中に全神経を集中していると、いつの間にか洗いっこが終わっていた。風呂に浸かっていないのに、のぼせるところだったぞ……。てか、ムラムラしてきた……。俺って性欲強いんかな?


「茜」


「んー?」


「風呂上がったらさ、いい……?」


「いいよー」


 その後、俺と茜は今まで我慢していた時間を埋めるように、お互いを求めあった。








 






 


 


 

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