第22話 プレゼント

 期末試験も半分ほど終わり、今日は七月二十二日。気付けば茜の誕生日の三日前だった。しまったな……。テストに追われて忘れていた。プレゼントやらお祝いやらどうしようか……。


「律さん、どうかしましたか?」


「いや……、お前三日後誕生日だったなあと」


「そうですけど、それが何か?」


「何食いたい? 茜その日にテスト終わるしちょうどいいだろ?」


「えーなんだろ……」


「まあ考えててくれ」


 夕ご飯を食べた後、俺は応用力学のテストの勉強をし、茜もノートとにらめっこをしていた。誕生日のご飯は茜の好きなモノにしてもらうとして……、プレゼントはどうするか。


 化粧品類は……色々種類が多いし、茜の好みが分からんもんなあ。ネックレス系のアクセサリーとかもしてるとこを見たことが無い。財布やパスケースも良さそうなモノ持ってるから却下。


「私そろそろ帰りますね」


「もうそんな時間か、おやすみ」


「おやすみなさい」


 茜はそれだけ言うとすぐに帰ってしまった。なんかこの前から素っ気ない気がするんだよな……。俺が自分の恋心を自覚したあの日から。もしかして俺のことをそういう目で見ていないとか? いや、でも散々仕掛けてきたのは茜だしな。


 茜には何をあげれば喜ぶのだろうか。思いついたのは、人をダメにするソファだが……別に誕生日に送るモノでもないしなあ。俺の家にソファがないからあったら丁度良いんだが。座布団だと足痛くなりそうだし。


 俺は明日でテストも終わるから、何か探しに行くか。香奈あたりに聞けば良い答えが返ってくるかもしれない。まずは明日のテストに備えよう。


* * * *


 翌日、五限のテストも終わったので、浩斗ひろと香奈かなにプレゼントを選ぶのを手伝って欲しい、といった連絡をする。アイツらは昨日でテスト終わりだったみたいだし大丈夫だろう。スマホに目を落とすと既に既読がついていた。早すぎだろ。


香奈『いいよー』


浩斗『仙台駅の東改札前に集合な』


 即答の上に場所まで指定されてしまった。まあ、異論はないんだけども。コイツらの行動の早さには驚かされるばかりだ。


「律くん、やっほ~」


「おっす律」


「わざわざありがとな」


「いいよ~、それでプレゼントのお相手は~?」


「茜さんだろ?」


「正解」


 仙台駅について早々、香奈と浩斗から声をかけられた。俺より早く着いていたようだ。プレゼントをあげる相手はやっぱりバレてたか。


「茜ちゃんの好きなモノとか知らないの~?」


「食べ物」


「ぼけんなよ律。服とかのオシャレ系は?」


「アイツはシンプルなの好きだからなー。アクセサリーつけてるとこ見たことないかも」

 

「へ~、いっそ実用性重視のハンドクリームとかは~?」


 ハンドクリームねえ……、使いやすいし処分に困る事も無いから良いっちゃ良いんだが……。なんか華に欠ける気がするな。


「まあとりあえず見てみようぜ、なんかしら茜さんの好きなモノが見つかるかも」


「そうだな、そうするか」


* * * *


 俺たちは大型ショッピングモールに向かい、プレゼントを見ていた。ところがこれがなかなか……、ピンとくるモノが見つからない。


「決まらんなあ……」


「珍しいね~、律くんがそこまで悩むなんて~」


「お前いつも即決なのにな」


「もしかして茜ちゃんのこと意識してる~?」


「意識してるも何も、茜のことは好きだよ」


「へ? 異性として?」

 

「それ以外に何があるんだよ」


 こういう事言うの割と恥ずかしいんだが。浩斗と香奈の反応もおかしい。絶対ニヤニヤしながら揶揄ってくるのかとも思ったが、ポカンと口開けて俺を見てるし。双子みたいに同じ顔してるのが面白い。


「やっと自覚したんだねえ~」


「長かったなー」


「なんだよお前ら」


「いや~だって、テスト前のサークルの時はそんな素振り見せなかったのに~」


「もう付き合ってるのか?」


「いや、まだ」


「あ~なるほど~。プレゼント渡すときに告白するんだね~」


「そのつもりだよ」


 二人の質問に答えていると、ポケットに入れているスマホが振動する。画面を見ると愛沢あいざわりゅうと表示されている。電話か、どうしたんだろう。


「悪いちょっと電話だ」


「おう、そこの店の中いるわ」


「助かるわ」


 俺は人の少ないところに行き、スマホをタップして電話に出る。


『もしもし、愛ちゃん?』


『…………律、教室に学生証忘れてたぞ』


『あらま、ごめんな愛ちゃん』


『…………教授が拾ってくれたらしく、俺に渡してきたんだよ。今どこ居る?』


『仙台駅の大型ショッピングモール』


『…………そうか、俺は丁度仙台駅にいるから今から行く』


『わざわざありがとな。着いたら連絡してくれ』


『…………分かった』


 電話も終わったので、浩斗と香奈のところに向かう。……愛ちゃんには悪いかもしれないけど、プレゼント一緒に考えてもらおうかな……。より良い案が見つかるかもしれない。


「悪い待たせた」


「全然いいよ、香奈ちゃんとのデートも兼ねてるから」


「やけに付き合い良いと思ったらそういうことか」


「そうだよ~。あ、そういえば律くん、さっき買ったアレって何?」


「ああ、あのソファな。自宅に郵送してもらうやつだよ」


「律の家ソファないからな」


 実はこっそり買ってしまったのだ。人をダメにするソファを。茜にあげるプレゼントではないものの、丁度良い機会だし……。まあ、茜も喜んでくれるだろうし良い買い物だろう。


「茜へのプレゼントは別だけどな――お、愛ちゃん着いたのか」


「愛ちゃんって愛沢君のこと?」


「おう、俺の学生証届けてくれるみたいで。ちょっと行ってくる」


「律、俺も行っていい? 愛沢君と会ってみたい」


「え、別にいいけど……」


 浩斗がやけに乗り気になっている。この二人って接点あったか?二人が会ったら理由も分かるか……。気になりつつも愛ちゃんの居るところに急ぐ。


「…………律、はいこれ」


「ありがとうなー。マジで助かった」


「あの、愛沢君だよな。俺、手塚てづか浩斗だよ。覚えてる?最後の県大会で対戦した……」


「……………おお……、手塚君か……。もちろん覚えてるよ」


 ああーなるほど。愛ちゃんと浩斗は宮城県の高校バレーボールだったか。そりゃ対戦したこともあるよな。二人とも現役合格で年は一緒だし。二人とも楽しそうに話している。


「あ、そうだ。話し込んでるところごめん。愛ちゃん、プレゼントに何か良いもの思い浮かぶ?」


「…………プレゼント? もしかして南正覚みなみしょうがくさん?」


「そうそう茜の。誕生日もうすぐだから」


「…………あの子前に会ったときヘアピンしてたな。ヘアピンとかどうだ?」


「ヘアピン……良いかもな。値段も高すぎないし、ワンポイントあるやつ選べば使いやすいだろうし……。愛ちゃんありがとう!」


「…………律はあの子が好きなのか?」


「おう、そうだけど」


 まさか一日に三人同じ事を言われることになるとは……。というか、なんで皆真っ先に茜のことを思い浮かべるんだ?俺ってそんなに分かりやすいのか?


「…………そうか、良かったな。俺は、律に好きな人が出来て嬉しい」


「……愛沢くん格好いい事言うね~。カノジョとか居るでしょ~」


「…………いないぞ? えっと……、青山さんで合ってるか?」


「正解~。よく知ってるねえ~」


「…………律からたまに話聞いてるから」


「それは嬉しいな~、今度私の友だち紹介しようか~?」


「…………良いのか? そんないきなり」


「律くんから、愛沢くんは良い人だって話よく聞いてるからね~」


 さっきまで黙っていた香奈が急に話し出して、なんか面白いことになってんな。けどどうするか……。早速ヘアピンを見に行きたいところだが、今は七時半すぎ。店も閉まりかけているだろうし。茜も腹空かせているだろうし……。


「今日はもう遅いし、明日俺一人で探すわ。付き合ってくれてありがとうな。今度飯奢るから」


「あー茜ちゃんのご飯作らないと行けないもんね~」


「そういえばそうだったな。律と茜さんもう結婚してるようなもんじゃねえか」


「うるさい、付き合えるかどうかすら分からんのに」


「じゃあね~。あ、折角だから私たちは一緒にご飯食べない?愛沢くんはどう~?」


「…………良いのか?」


「もちろん。俺も愛沢君と話してみたい」


「…………じゃあお言葉に甘えて」


 どうやら三人は一緒に夕飯を食べることになったみたいだ。愛ちゃんは見た目で誤解されがちだが、中身は本当に良い奴だからなあ。愛ちゃんを理解してくれる人が増えるのは良いのかもしれない。


「じゃあな。今日はありがとう」


「じゃあなー」


「じゃあね~」


「…………またな。頑張れよ律」


 三人と別れて店を出る。明日はプレゼントを買いに行き、そして明後日は……。俺は茜の誕生日に自分の思いを告白する。









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