第6話 合コン
「なあ、
「律君お願いしますよ、君が必要なんです」
「…………頼んだ、律」
水曜日。五限終わりで現在の時刻六時前。さあ、帰ろうかとリュックを持ち上げたら、同じ学科の男友達三人に話しかけられた。
合コンに誘ってきた奴が
ですます調で話すのが、
寡黙な男が
「え、やだ。俺帰りたいんだけど」
「頼むよ律」
「まあそんなこと言わないで下さいよ」
「…………律、お前に来て欲しい」
合コンなんて普通に面倒くさいので即断るが、こいつら三人はなかなか引き下がらない。必死過ぎるだろう。
「なんで俺誘うの? 他の奴誘えば良くねえ?」
「お前黒髪短髪だから、見た目は普通に爽やかスポーツマンみたいで都合が良い」
「まあまあイケてるから丁度いいんですよ」
「…………お前最近カノジョと別れたみたいだから気晴らしになれば良いと思って」
愛ちゃんはまあよし。普通に優しい。ただ、清隆と夏希は根っから失礼。この二人は俺をなんだと思っているんだ。
「愛ちゃんだけとなら行ってもいい」
「おいおい。そういうこと言うんじゃあないぞ」
「そうですよ。だって律君、今日は僕たちの奢りですよ」
「承った」
「…………即答だな相変わらず」
やったぜ。タダ酒が飲める。合コンは正直、かなり面倒臭いがまあ行ってやろう。タダで酒が飲めるならそれに越したことはない。
「ちなみに何時からなんだ?」
「六時半だな」
「場所は仙台駅にある居酒屋ですね」
「割とギリギリじゃねえ?」
「…………急いで行くぞ」
そうして俺たちは直ぐさま地下鉄に乗り、仙台駅へと向かった。
「今日の相手は他大?」
「んや、同じ大学」
「一年生ですよ」
「…………文学部って聞いた」
「え、なんで合コン出来たの? 清隆のコネクション?」
「今回は俺じゃなくて――」
「僕ですよ」
「夏希か。お前一年生と交流あったの?」
「ええ、僕の所属している読書サークルで文学部の一女が居るんですよ」
「その子と合コンしようって話になったってこと?」
「そうです」
まさか、そんなことになっているとは……。正直に言って、夏希は清隆ほどコミュニケーション能力が高くないので思いも寄らなかった。そういや、茜さんって文学部だったよな……。まあ、一学年に二百人以上は居るし大丈夫だろう。……、一応聞いておくか。
「じゃあ
「いえ、会ってからのお楽しみだそうで」
「…………あとどれぐらいで店に着くんだ?」
「あと三分もかかんねぇよ」
ナイス愛ちゃん。俺もそれ気になっていたんだよ。仙台駅に着いたものの、もう五分ぐらい歩いていたからな。今六時二十分だから時間も不安だし。
「あ、言い忘れていましたけれど、今日の子たちは全員未成年ということなので」
「え、マジ? まさかお酒飲めないの?」
「そういうことだ、諦めろ律」
嘘つき。
店に着いたが、禁酒令を言い渡された俺はかなり盛り下がっていた。てか、清隆と夏希は絶対わざとだろ。酒で俺を釣っといて、実際はお預けなんて……。この二人と友達辞めようかな。愛ちゃんは俺の癒やしなので別にいい。
「まあまあ、律君。良い出会いがありますよ」
「そうだぞ、律。観念して今日は楽しめ」
「俺はお前らと出会ったことが間違いだと思っているよ……」
「…………律、ごめんな」
「愛ちゃんは全然悪くないからな」
「あ、来ましたよ」
清隆と夏希の雑なフォローに呆れていると、どうやら女の子たちが来たようだ。俺は合コン自体初めてだが、果たしてお酒無しの合コンは大丈夫なのだろうか。一抹の不安が隠せない。そこには、ここ最近よく見る女子が混じっていた。
「どうも初めまして~。女子の幹事の
「梓ちゃんね。俺は
サラッと清隆が女の子四人を店の中に入れていく。秒で名前呼びするあたり、もう既にチャラい。清隆が先頭になり、後ろに女子四人、その後ろに俺たち三人が並び店に入っていく。見覚えのある黒髪ボブカットの女の子がいるのは気のせいではないだろう。
席についてまず自己紹介とのことで、まず女の子たちから自己紹介をしていく。
自己紹介は長いので適当に聞き流し、男達も各々自己紹介を終える。今日来たのは女子四人。名前は
梓さんは茶髪のハーフアップ。百々菜さんは茶髪のお団子でオシャレメガネ。聞いたところ、夏希と同じサークルらしい。奈央さんは茶髪ショートで体育会系。茜さんは言わずもがな。なんで居るの。
茜さんはちなみに俺の真正面に座っている。茜さんは俺を一切見ないので、他人という体でいくのだろう。俺もそっちの方がありがたい。どうしてこうもピンポイントで遭遇するのだろうか。不思議でならない。
* * * *
清隆はいつも通りだ。梓さんと奈央さんの二人をはべらせて合コンを楽しんでいた。夏希は百々菜さんと本の話をし、時々二人の空間を作り出していた。合コンなんて企画せずに早く付き合えばいいものを。
俺は女の子たちの質問を適当に流し、それ以外は基本的に飯を食っていた。愛ちゃんは見た目がかなりコワいので、誰にも話しかけられることなく。気を遣った茜さんと俺は、愛ちゃんを交えて三人で話していた。茜さんは話すとき以外は、黙々と飯を食っていた。ブレないなあ。
そんなかんやで二時間が経って合コン終了。やっぱりつまんなかった……。そもそも、俺が楽しむ気分じゃ無いことが問題なんだが。
「二次会行く人ー!」
『行くー!』
「あ、私は遠慮します」
「俺も遠慮します」
「…………遠慮する」
俺と茜さん、愛ちゃん帰宅。それ以外の人は二次会に行くみたいだ。アルコールが入らない二次会ってなんなんだろうな。
愛ちゃんは実家暮らしで俺と別方向なので、帰りは別。結局俺と茜さんが二人一緒に帰ることになった。マンション一緒だし当然か。そして帰りの地下鉄の中。
「あの、センパイ」
「何?」
「今日全然楽しくなかったですね」
「そうだね。逆に面白くなってくるぐらいつまらなかった」
「センパイはひたすらご飯食べてましたね」
「それは茜さんもでしょ」
「ふふっ、そうですね」
合コン中には一切見せなかったような笑顔をこちらに向けてくる。そんな顔を見せられると、俺も思わず顔が緩んでしまう。
「今日はどうして来たの? 人数合わせ?」
「当たりです。センパイもそうですよね?」
「正解。本当は合コンなんて全く気分じゃ無いからね」
「ご飯に釣られましたか?」
「半分正解。俺は酒に釣られたんだよ」
「相変わらずお酒好きなんですね」
「それはもう仕方が無い。茜さんもご飯代奢るとか言われたの?」
「ええ、そうです」
似たもの同士か。俺たちはお互いに可笑しくなってクスクス笑っていた。茜さんは不思議な人だ。一緒に居るとどうしてか、和む。
「ねえ、センパイ?」
「どうしたの?」
「あの……、私飲んでみたい気分なんですよね」
「奇遇だね。俺もめっちゃ飲みたい気分」
「センパイはいつも飲みたい気分じゃないですか?」
「ははっ、そうともいう」
「じゃあ、お酒買いに行きましょうか」
「そうだね。俺の家でいい?」
「ええ。私の家はすぐに汚れてしまうので」
「そこはもうちょっと片付ける努力しなさいよ」
そうして、俺と茜さんの二次会の開催が決定した。
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