第4話うたおう、ふたりで

 午後八時。夕食を食べ終え、宿題をするために部屋に引っ込んだがやる気が起きず、ノートを机に広げたままだらだらしていた将斗まさとのスマホが鳴った。画面には『拓也たくやの家』と表示されている。将斗は通話ボタンを押した。


「もしもし、将斗?」

 拓也の声が、流れてくる。

 もしもし、将斗だよ、こんばんは、と返す。


「急に電話しちゃったけど、今大丈夫?」

 うん、平気。ちょうどだらけてたから。

「よかった。」


「俺が、合唱部に入ったって知ってる?知ってるよね。」

 聞いた。てっきりサッカーやるんだと思ってたのに。

「うん。きっかけをまだ話してなかったなと思って。」

 俺が訊きたいって書いたやつだ。

「……俺、将斗がソロやってるの見たときから、合唱部に入ろうって決めてた。」


 スマホ越しに、将斗が「えっ、えっ?」と声を上げるのが聞こえる。変わんないなぁ、と思わず笑みがこぼれた。


 えっ、

 結構前じゃない?譜めくり頼んだときだよね?

「そう。」

 そうなんだ。

 もっと早く言ってくれればよかったのに。

「ごめん、入学してから言ってびっくりさせようと思ってたから。」

 そうだったの。……なんだ、俺、なんにも知らなかったんだな。


 予想外なことに、拓也の声は沈み始める。


「歌おう、二人で。」


 唐突に、将斗の口からそんな言葉が転げ出た。


 は?

「いや、なんていうか……。」

 突然過ぎない?

「同じように合唱部に入ってるんだからさ。いつか二人で、一緒に歌えるんじゃないかなって。」

 あぁ、そういうやつか。


 そう言うと、拓也は珍しく「ふふん」と鼻息荒げに笑った。


 将斗、俺はこんなでも、うちの部は強豪校だからな?

「え?」


 だからさぁ、約束だよ。

 勝ち上がって、全国大会で会おう。

 それで、

 うたおう、ふたりで。今度こそ。

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うたおう、ふたりで 夏野彩葉 @natsuiro-story

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