レイピアにします

「武器にもいろいろある」

 サーシャとセラは龍研前の大階段を下りながら話を続けた。

「武器は攻撃方法によって大きく分別される。斬・突・打・撃、とかいうやつ。斬撃は剣使いや刀使いの役割。最も基本的な攻撃方法。尻尾や足を切って攻撃や動きを封じる。次は刺突。槍やレイピア。目や心臓を狙って致命傷を与える。打撃はハンマーやメイス、鞭。硬い鱗を割ったり頭を殴って動きを止めたりする。これがあると斬撃と刺突がずっと入りやすくなる。最後は射撃。弓ね。近接武器ほどのパワーを出すのは難しいけど、矢の種類によって龍を誘い込んだり、囮になったり、毒を盛ったり、色々なサポートをこなすことができる。狩人がパーティを組むのはそれぞれの利点が必要だから」

「魔法は射撃?」

「基本的には。電撃や氷で足止めしたり風で飛行を煽ったり」

「火炎放射もできる」

「でも炎耐性のある龍は多いから、炎系魔法しか使えない私みたいな魔法使いは狩人には向かないんだ」

「そうなの?」

「私はパワーでゴリ押ししているだけよね」

「他の狩人はナントカ使いって武器の名前で括るのに、なぜ魔法使いは杖使いではなく魔法使いなの?」

「いいところに気づいたね」

「えへへ」

「それはね、才能が必要だから。どの武器にも向き不向きはあるけど、魔法だけは鍛錬だけではどうにもならないの。適性のない人間が杖を握っても何もできない。だから杖使いという呼び方は嫌われているし、魔法使いは貴族と同じように、生まれながらにして与えられた存在として羨望と妬みの対象にされている。魔法を使える人間が他の武器を扱う『ナントカ使い』になることは暗黙の禁忌なの。魔法が使えない狩人をバカにしているのかって」

「魔法を使える人間は武器を選んじゃいけないの?」

「そう」

「それってちょっと嫌な感じ……。魔法が使えたって他の武器の方が上手い人だっているかもしれないのに」

「そうだね」

「だからサーシャは穂先を隠してるのね」

 サーシャは杖を1本担いでいたが槍のような細長い杖で、穂先は革の袋で縛って隠していた。槍の鞘としては何の不自然もない。

「この格好なら魔法使いとは思われないでしょう? きっと名前を出さなければ気づかれない」

 セラは口に手を当てた。あまりサーシャサーシャと呼んではいけないと気づいたようだ。 

「ついでに言っておくと杖は武器屋では扱ってないんだ。でもその本当の理由は嫌われているからじゃない。杖が作れなくても、良し悪しがわからなくても、武器屋になれるからなの」


 武器屋に入った。店内は龍の素材で作った武器が所狭しと並んでいた。でもその多くはサンプルと入門用装備に過ぎない。素材を買うか持ってくるかして、オーダーメイドするのが基本だ。

「見ない顔ね」店番さんが声をかけた。

 当然サーシャは首都生活が長かったが、武器屋に来るのは初めてだった。普段世話になっているのは杖職人だった。

「この子が狩人になりたいって言うから、街に出てきたの」サーシャは答えた。

「お姉さんは槍使い?」

「これは護身用。狩りで使ってるのは大剣」

「へえ、その体格で?」

「あら、アルハンゲル・ミラーの鱗を使えば硬くて軽い大剣が作れるでしょ」

「ああ、ごめん。やり手だったか」店番さんは肩を竦めた。

「弓か近接か、まずはそこね」

「素早さには自信があるの。近接がいい。できれば軽い武器」セラは答えた。

「軽いっていうと基本的には短剣か細剣になるわね」とサーシャ。

「大剣は切って殴れるから、相性でいうと刺突の方がよくて、それなら細剣?」セラ。

「私はどっしり構えて撃ち合うタイプだから、一緒に戦うならすばしっこく走り回って掻き回してくれた方がありがたい。だから大剣って言ったの。短剣でも細剣でもいいよ。好きな方にしな」サーシャはセラに耳打ちした。

 セラは嬉しそうに頷いた。

「レイピアがいい。リーチがある方が安心だから」

 サーシャも頷いた。

「できあいのレイピアってある?」サーシャは店番さんに聞いた。

「ベルガ・ホーンの角から削ったのと、カンブリア・インフェルノの棘から削ったのがあるよ」

「インフェルノ?」

「少し高いけどね。切れ味はともかく、軟らかくて、折れにくい」

 見せてもらうと桜色の刀身に赤い柄と鞘の高級そうなレイピアだった。

 セラは何度か振って手応えを確かめた。

「それにしよう」とサーシャ。

「でも」セラは遠慮した。

「ホーンの方が手に馴染む?」

「そういうわけじゃないけど」

「ならいい。インフェルノの武器なら上等だよ。防具は?」サーシャは店番さんに訊いた。

「それはホーンのしかないね」

「この子の体に合わせられる?」

「1週間もあれば」

「少しかかるか。それは今度素材を持ってこよう」

「よろしくね。でも狩りに必要なのは戦闘用の武器・防具だけじゃないよ」

 店番さんはそう言って狩り包丁と火薬ボルトをカウンターに置いた。

「ああ、それも一式お願い」サーシャは言った。

「龍を仕留めたら解体しなきゃならない。そのままだと運べないからね。まずはこの火薬ボルトをハンマーで打ち込んで鱗を割る。それからこの狩り包丁で捌く。他の武器を使うにしても刀とハンマーの使い方は全ての狩人が覚えるんだ」

「おお……」セラは目を輝かせて道具を眺めた。

「あとはキズ薬や解毒剤も欠かせない。それが一式このポーチに収まるってわけね」

「おお!」

 サーシャはレイピアとポーチのお代をポンと出して店を出た。

「あ、ありがとう」セラは早速ポーチを腰に巻いた。

「今度素材を持っていくって言ったけど、あれは方便ね。防具は別に世話になってる店があるんだ。でも武器だけ買って防具なしってのもおかしいから、一応」

「なるほど」

「それじゃあクエストを受けに行こうか」


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