第2場

 マリーの声がした。

 正確にはそんな気がしただけだが、ギギは周囲を見回した。

「どうした?」隣を飛ぶビビが言った。

「声が聞こえたんだ」

「声? 誰の」

「彼女の」と言い掛けて、ギギは口を噤んだ。マリーのことを上手く説明出来る自信がなかった。

 風を切る音の向こうから、溜息が聞こえた。

「どこからだ?」

「え?」

「声。どこから聞こえたんだ?」

「信じてくれるのかい?」

「信じてほしくないのかよ」

 声は、空気を震わせて聞こえてきたわけではない。だが、どこから発せられたのかはわかる気がした。そう思える根拠となったのが、生え替わったばかりの角であった。鼻先の角に違和感を覚える。初めは気のせいかとも思ったが、顔の方向によって、違和ははっきりと感じ取ることが出来た。

 やがて、西の方角を向いた時、角の芯に疼きを覚えた。

「こっちだ」ギギは言って、進路を変えた。そちらに「彼女」がいると、確信があった。

 マリー、と彼は胸の中で呼び掛けた。

 大丈夫、君の声は届いたよ。

 今度はもう、間違えたりはしないから――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る