第2場(2)

 久しぶりにここへ来た――。マリアはどこまでも続く青空を前に、そんなことを考えた。 青空。流れる白い雲。それらを鏡の如く映している茫漠たる水面。まるで空の中にいるのではと思えてくる景色は昔と変わらない。彼女は〈果てのない湖〉に立っていた。

 足元には自分の姿が映っている。しかし、先ほど鏡台に映っていた顔よりも幾分か若く見える。髪を結い上げる前の、マリーと呼ばれていた頃の少女の姿だ。これまで気付かなかったが、意識してみると時の隔たりを感じずにはいられない。

 マリアは頬に手を添える。水面の中の自分も、同じ動きを見せる。

 しかし、鏡像が波紋で歪むことはない。初めてこの場所へ来た時とは違い、水面に映る自分は、真っ直ぐにマリアの方を向いていた。

 顔を上げても、誰の姿も見当たらない。彼女は一人のままである。

 雲がゆっくりと、しかし確実に空を渡っていく。

 どれだけ待っても、待ち人は現れなかった。マリアは空の真っ只中に取り残されたような気持ちを抱えながら、改めて辺りを見回した。

 遠くに鼠色の雲が立ちこめている。瞬きと、微かな雷鳴も聞こえてくる。

「ギギ……」

 唇を解いて呟くのと同時に、彼女は目覚めた。

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