第8場
頭の中が痺れている。まるで夢でも見ているようだ。
夢。
あの、青空の只中にいるような光景に較べたら、今、彼の足元に広がっているのは地獄そのものの眺めである。
炎、黒煙、炎、黒煙、炎、黒煙、炎、炎、炎――。遠くからでも大きく見えていた人間たちの住処は、今や全てが炎に包み込まれている。これら全て、ギギが一人で行なったことである。そうとしか考えられぬ筈だが、なかなか実感が湧いてこなかった。
熱気が吹き上がる。続いて、肉の焦げるにおいも。
そろそろ潮時か、と冷静になりかけたところへ、人間たちの攻撃が当たり、爆発が起きる。何もしてこなければ、こちらだって何もしないのに。どうしてそんな簡単なことがわからないのか。ギギは人間の愚かしさに憤る。その憤りが、そのまま火炎となって彼らを焼く。
息が切れる。意識が遠のきかける。鼻先の角は熱いままだ。
ぼんやりとした頭に声が響く。名前を呼ばれたような気がする。しかし、辺りを見回しても仲間の姿は見当たらない。遠くにビビを見つけたが、声の届く距離ではない。
振り向くと、一際背の高い岩があった。人間たちの手で作られたものらしく、山にあるような岩とは違い、地面から真っ直ぐに伸びている。その尖った頂上部分は丁度、ギギの目線と同じ高さだった。
そこに人影があった。
たった一人、女が立っていた。
乱れる髪とはためく衣類が、彼女に吹き付ける風の強さを物語っている。それでも彼女は二本の足でその場に立ち、じっとギギの方を見据えていた。舞い上がる火の粉の向こうでは、見覚えのある眼差しが光っていた。
「マリー……」
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