第2場(2)

 夕食の席で、マリーは父に授業のことを話した。つまり、なかなか魔法を使わせてくれないことへの不満を、である。

 すると父は大きく笑い、

「あの司祭は私の時もそうだった。散々書物を読まされた挙げ句、最後の最後で初歩的な点火魔法を教わっただけだったよ」

「そんな」マリーは肩をいからせる。「わたしも魔法が使えるようになりたいのです。他の先生に変えて下さい」

「まあ、そう言うでない、マリー。君主には魔法の力などいらないのだ」

「なぜです?」

「君主の役割は国を治めること。そして兵を指揮することだ。それらは皆の信頼の元に執り行わなければならぬ。魔法や武力の類いは必要ないのだ」

「わたしは別に、人を従わせるために魔法が使いたいのではありません。一つの経験として興味があるだけです」

「もちろん、お前に限って妙な間違いは犯さないと信じている。しかし、強すぎる力というものは、簡単に人を呑み込んでしまうものなのだ。誰であれ、それに抗うのは容易なことではない」

「司祭様と同じようなことを仰るのですね」マリーは口を尖らせる。

「元・教え子だからな」国王は微笑んだ。「昔は老人の話に反発したものだが、こうして歳を取ると一理ある気もしてくる」

 もちろんマリーは納得がいかない。魔法の素質は人間なら誰もが備えたものだと聞いている。方法さえわかれば使えるのなら、使ってみたいと思うのが人情だ。現に市井の人々は、「重い」「軽い」の差こそあれ日常生活の中で魔法を使っている。もし父の伝でいえば、魔法を使った争いがもっと起きていてもおかしくない。だが城から見渡す限り、人々は平和に暮らしている。力に呑まれた様子など見受けられない。

「司祭様は、竜は無暗矢鱈と力を使うと仰いました。ということは、反対に人は、自らを抑える力があるということですよね?」

「そうだな」

「それでも、人は力に呑まれてしまうのですか?」

「人は弱い。力さえあれば、竜と変わらぬ振舞いだってしてしまうだろう」

「なのに竜ばかりを悪く言うのですね」

「反面教師が欲しいのだよ。わかりやすい悪者がいれば、それを悪い手本として自分たちを律することが出来る」

「なんだか嫌だわ、そういうの。本当は同じものを持っているのに、相手ばかりを不当に貶めて。人も竜も変わらないかもしれないのに」

「だから人は弱いのだ。しかし、大切なのは弱いとか強いといった点ではない。その弱さを知っているか否かということだ。幸い、お前には今こうして、人の弱さを教えることが出来た」

 しかし、マリーの不満はまだ晴れない。それを察したらしく国王は肩を竦め、

「点火魔法の実技ぐらいはするようにと頼んでみよう。これから寒くなる。暖炉に火を灯すぐらいのことは出来ても良いだろう」

 マリーはようやく頷いた。これ以上わがままを述べる歳でもない。彼女は再びナイフとフォークを手に取り、食事を再開した。向かいの父は微笑んだまま彼女を見ていた。料理には少しも手が付けられていなかった。

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