第5話

   15日目


 手帳に並んだ会社名のうち、一つに取り消し線を引く。その会社の入ったビルの前で。

 同じページには、他にも線で消した社名が並んでいる。数える気も起きないけど、十は越えている。それだけ落ち続けていると、面接の手応えで合否がわかる。

 もう正社員とか非正規だとか言ってる場合じゃない。わたしはなりふり構わず、下手でもいいから鉄砲を撃ちまくった。だけど弾はどこにも当たらず掠りもせず、「このままいけば来月は無職」という状態は未だ続いていた。

 五歩に一度ぐらい溜息をつきながらアパートの前まで来た。郵便受けの中身を確認していると、「あれ」と声がした。

「おかえり。丁度よかった」桃太郎だ。

「出掛けてたの?」

「うん、川に」例の「船」のことだ。「船」とはいうけど実際は打ち捨てられていた二人乗りのボートで、彼はこないだの日曜にススキの中でそれを見つけて以来、修理に勤しんでいるのだった。

「修理は順調?」

「まあ、なんとか」そう言いつつ、声色から順調そうな様子が伝わってくる。「もうすぐ水に浮かべられそうだ」

「さいですか」階段を上がり、玄関を開ける。

 真っ暗な部屋。久しぶりに、誰もいない部屋に入った気がする。

「どうした?」

 声を掛けられ、ハッとした。

「いや」靴を脱ぐ。「何でもない」

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