幸と不幸は物理的に隣り合わせの場合が多い
「レイの魔法って明かりのないところでも使えるの?」
馬車に揺られながらリグレットが問う。
「いや、明かりが全くないとこじゃ使えない。でも光玉があるし、一瞬でも影が出せれば大抵の相手は殺せるから心配するな。」
「ならよかった。こんなところで死ぬのはごめんだからな。」
そう言ってリグレットは後方に向かってライフルを構える。
「。。。できる限りやるけど間に合わなくなったら手伝ってよ。」
「わかってるよ。」
引き金を引くとそこからは凡そライフルの物とは思えないような低く重たい爆発音が鳴る。空気の壁を打ち破り発射された弾丸は馬車の後ろを追いかけてくる黒い影へとまっすぐに飛んで行く。
馬車の後方に着いてくる大量の黒い影。弾丸が当たった瞬間にその体は破裂したように散りそして消えてゆく。弾丸は一直線に進み進路上のすべての影を爆散させる。
「やっぱり結構いけるかも。」
そう言うとリグレットは次の一発を発射する。銃口が火を噴き空気が震える。弾丸は先の一発と同じように黒い影を散らして進む。三発、四発と発射された弾丸は馬車の後ろを追尾する影を確実に倒してゆくが、リグレットの目には一向に減っているようには見えなかった。
「前言撤回。やっぱり助けて。」
「足音がしないけど、なに?」
「自分で見てよ。俺にも何なのかわからねえ。」
「見えないんだよね。黒いモヤモヤっぽいのしか。」
ちらちらと振り返りながらレイが言うとリグレットは焦った顔で返す。
「それだって。そのモヤモヤしてるやつ。全然減らねえんだよ!」
「ちょっと運転かわって。」
「無理だって!追いつかれる!」
「そんなにやばいのか?」
「かなりやばい!」
「これ、馬って手離しても大丈夫なの?」
「わかんねえけど、早くしてくれ!」
「ちょっと待て。馬車だ!」
「なすりつけるの!?」
「おう。ついてたな!」
「流石にやばいだろ!」
「いや、よく考えたら昼間木切るのに魔素だいぶ使ってるからあれ全部殺すの無理だから。」
「じゃあ使用がねえな!こんな時間に出てる方が悪いしな!」
正面に見えた明かりに向かって馬車を進めるとフードを被った男が手綱を取っていた。馬に乗った騎士が二人護衛についている。リグレットの銃声を聞いてか、近づいてくるレイたちの馬車に注意を向けている。
「荷物捨てろ!並んで追い越せなかったら擦り付けらんないからな。」
レイはそう言うと馬車を並べて走らせる。
「貴様ら、何のつもりだ‼」
後ろを追ってくる影に気づいた騎士が叫ぶ。
「追われてるんだ。助けてもらう。」
やや声を張りそう言うと、レイは一気に速度を上げ相手の馬車の進路と交差するように追い抜き全力で引き離す。向こうの馬車は重荷を積んでいるのか速度が上がらずに思惑通りに黒い影の餌食となる。
「こんなことをしてタダで済むと思っているのか‼この馬車には。。。!」
後ろを走る護衛の騎士が叫ぶがレイ達はそんなことは意にも介さずに走り続ける。
「いやー、助かったな。」
リグレットが笑顔で言う。
「本当に運がよかった。あれが居なかったら俺たちがやられてた。」
レイもほっとした様子で返し、二人で今来た道を振り返る。そこに馬車の姿はなく、朝日がゆっくりと昇ってゆく光景だけが目に映った。
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