円卓とは囲、蛙とはいつだって僕らだ

「レイが切ればいいじゃん。木くらい楽勝でしょ。」


 城の周りの木を伐採する魔族たちを見ながらレックスが言う。


「ああ。楽勝だ。だがいやだ。」


 対するレイは平気で断る。


 初雪は止み、空は晴れ土はわずかばかりの湿り気を帯びている。空気は冷たく肌をさし、温かな日差しがそれを包み込む。そんなのどかな昼下がり。


「え、嫌なの?楽勝なんでしょ。」


 レックスが驚き尋ねるのにレイは真顔で答える。


「俺がここで魔素使い切ったら外で何かに襲われたときどうするんだ。」


「戦えばいいじゃん。刀で。」


「無理だ。魔法が使えなかったら子供相手でも勝てる気がしねえ。そもそもこの刀もかっこいいから下げてるだけで、本音を言ったら重いし邪魔なんだよ。」


「嘘だろ。バカじゃん。そんなんで俺らのこと仕切ってるの?」


 肩を落とし、目を丸くしてレックスが文句を垂れる。


「なんで俺が仕切ってるか教えてやろうか?」


 得意げに話すレイに対してレックスは真顔で返す。


「ぜひ教えてもらいたいね。」


「お前らが、全員もれなく俺よりもバカだからだ。」


 静寂が二人を包む。


 冷たい空気に魔族たちの作業音だけが響き渡り、鼓膜を揺らす。


「たぶん、俺らの中で一番ぶっ飛んでるのはお前だよ。」


 レックスは魔族たちを眺めたまま、無感情な声でそう言った。


「レーックス!レーックス!見てくれよ、レーックス!」


 魔族たちの更に向こう側からリグレットの声が聞こえた。


「一番のバカがやってきたぞ。」


 そう、レイが言うと


「あいつはバカだけど、悪いやつじゃあ無いから。お前は平気で周りを巻き込むだろ。」


 レックスはそう返す。


「そんなこと言って、いつも楽しんでるじゃねえか。」


「まぁ、違いないね。」


 いつもの様にバカみたいに大きい猪を引きずりながらバカが奇声を発してやってくる。


「猪以外の獲って来てくれって言ったじゃん!」


 レックスは声を大にして言う。


「じゃあ俺行くから。」


「待ってって。木切ってよ。」


 すんなりと出かけようとするレイを引き留め交渉を続ける。




「いや、驚いたな。」


「ああ、まさか一日でこんなに木切っちまうとは思わなかったよ。」


 夕方、スカウトに向かった二人が帰ってきてそう溢す。


「レイが切ってくれたんだよ。最初から頼めばよかったよね。」


 レックスの言葉に空気が和やかさを増す。デルタとダリーのいない食卓。いつもと比べると会話の賑やかさと料理の豪勢さが少ない。


「これ森ほとんど切っちゃってるけど、周りの国とかにバレたらやばいんじゃないの?」


 猪のステーキをつつきながらギャップが問うのにリグレットが嬉しそうに食いつく。


「やっぱやばいよね!」


「昨日まであった森が突然無くなってるわけだからな。調査とかは来そうだよね。まだ警備体制も整ってないしやばいかな?」


 レイが呑気そうに答える。


「レイはなるべくばれないように大きくしたいの?」


 レックスが問う。


「それはそうでしょ。今俺たちってマロン王国の国民でしょ。今やってるのって見つかったりしたら死刑になるくらいのことだからね。」


「まじで?飯食ってる場合じゃないじゃん。」


 レイの言葉にリグレットが焦ったような顔で立ち上がり言う。


「ということで緊急会議を開きます!」


 レイが宣言する。


「議題は俺たちが国家反逆罪に問われないようにするにはどうしたらいいか。何か意見のあるやつは?」


「そもそも、問われずに国として認めさせるのにどうするつもりだったの?」


 ギャップが問う。


「向こうが認識した時点でもう国として確立されたものになってる予定だったんだよね。それをレックスが木とか全部切っちゃうから。」


「切ったのレイじゃん!」


「お前が切れって言ったんだろ!」


「予定とか言わないからじゃん!」


 食卓に賑やかさが増す。


「まぁ、やっちまった物は仕方ないし、今どうするかだろ。」


 フラッシュが真顔で仕切りなおし、ギャップが続ける。


「要するに握りつぶされる程度の段階で見つかっちゃいけないってことだよね。」


「そうだな。だから方法としては見つからずに済ませるか、見つかっても脅威と思わせないか、手に負えないと思わせるか。くらいだろうな。」


「見つかって脅威と思われなくてもこの場所は俺たちの物だって主張できるのかな?」


 レイの案についてリグレットが続け、フラッシュが答える。

 

「微妙だよな。もともとこの森の所有権てモルドかマロンかではっきりしてないし、昔から住んでたやつがいるわけでもないし。」


「じゃあさ、魔蛇の物ってことにしようよ。レックスでかい蛇くらい作れるでしょ?」


 リグレットが言う。


「できるけど、それだと討伐されそうじゃない?今見つかって俺たちの物だって言いきれないと探索組がいっぱい来るよ。」


「もうじゃあ、なるべく早く国民を集めるか。1000人くらい居れば押し切れるだろう。」


 レイが言う。


「今いるので魔族が80と人間が7だけだよ。見つかるまでにあと900いける?」


「別に1000人もいなくていいんじゃない?その辺の少数部族って国民って言っても国の決まり事とか関係ないし、何なら言葉も通じないやつとかもいるじゃん。俺たちも少数部族みたいな感じでいれば。」


 ギャップの意見にフラッシュが苦言を呈する。


「魔族大丈夫か?見つかった瞬間攻撃されるだろう。」


「そうだよね。魔族の国なんて聞いたことないもんね。傍から見たら魔獣だし。」


 リグレットが肩を落としつつ言う。


「見つからない方法って何かあるの?」


「ないだろう。」


 フラッシュが冷たく言い放つ。


「森どころじゃなくしてしまうって言うのはどうだ?」


 レイが悪い笑みを浮かべながら言う。


「レイの作戦ってロマン系が多すぎるんだよな。」


 レックスからの文句など気にもせずに続ける。


「隣国と戦争させちまえばこっちにかまってる余裕なんてなくなるだろう。マロンはティガップと、マグナはパルテナとさ。」


「どうやって?」


 ギャップが率直な質問をする。


「勝手に宣戦布告するとか、境界近くの村を襲撃するとか。」


「それって危なくない?」


「危ないのなんていつものことだろう。ほかに何かあるのか?」


「実際その辺って戦争したがってるのかどうかってとこだよな。」


 フラッシュが話し出す。


「何かしらそういうのがあるならちょっとしたきっかけを作ってやれば戦争を起こすのもできるだろうし、何もないなら変なことしても逆に俺たちが危険にさらされるだけだろうしな。」


「。。。難しいか。」


 ギャップがつぶやく。


「王都のさ、富豪の家を襲撃するのは?」


 妙案を出したのはレックスだ。


「悪い噂のあるやつ限定でさ、襲撃して財宝と奴隷を攫ってくるのはどうかな?国民も資金も注目も集めれるよ。」


「確かにこっちからしたらいいことばかりだけど、悪い噂のある連中が国を回してるもんだぞ。向こうの国力が落ちちまう。」


「フラッシュってバカだよね跡で征服するんだから弱らせとけばいいじゃん。」


 リグレットが楽観的に意見する。


「俺たちの物になったときに立ち行かなくなったら大変だろうって話だ。」


 フラッシュが真剣な顔でいるのに対しレイが楽しそうに言う。


「いや、いいかもしれねえな。奴隷はうちで、財宝は隣国に回そう。ついでに戦争も起こせるぞ。そうなったら2年は稼げる。」


「お前どんだけ戦争起こさせたいんだよ。」


 リグレットがあきれ顔で言う。


「やることは決まった。レックス、木の根を全部掘ったら塀だ。街全体を囲うように設置する。これからここは王都アルエな。フラッシュとギャップはレックスの手伝いと王都の守備だ。お前ら二人いればそうそう負けることはないだろう。調査隊とかは全員殺していい。俺とリグレットはデルタたちと合流して鼠小僧だ。」


 レイはいつになく楽しそうのに指示を出す。


「調査できたやつらさ、合成に使ってもいいよね?人間素材にするといいのができるんだ。」


「すきにしろ。とにかく塀は大急ぎで頼む。塀さえできれば中は誤魔化せるからな。俺たちの方からもどんどん人材補充するからよ。」


「了解。」


「リグレットは俺と今から出発する。じゃあ各自よろしくやってくれ。」


 レイは方針を決めてしまえば仕事の早い男である。


 かくして、愉快な男たちは世界をかき乱すべく走り出すのであった。


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