同じ目的を持つ者同士であればそれは仲間である、なんて言うのはちゃんちゃら可笑しい話である


 玉座の間。赤い絨毯が敷かれた広大な部屋の最奥部、3段高くなった台にやや弧を描くように並べられた大きな椅子がある。椅子は七つ。そのどれもが金と赤で彩られ、いかにも権力を主張しているようなデザインだ。


 左端からギャップ、デルタ、レックス、中央にレイ、リグレット、ダリー、フラッシュの順に豪華な椅子に座っている。


 広大なこの部屋には今7人の王がいる。


 広大なこの部屋には今7人の王しかいない。


「それで、これからどうするよ。」


 右端の席に座る王が前を向いたまま誰とは言わずに声をかける。


「とりあえず国名だな。」


 中央に座る王が言うと、その右隣の王が口を開き、段々と会話に勢いが増してくる。


「レックスの魔獣たちを国民にするなら俺たちって魔王だよね?魔王の納めてる国って何?魔国?」


「魔導王国じゃないか?魔獣も導く王の国で」


「じゃあ、なんとか魔導王国よりも、魔導王国なんとか。の方がいいよね。」


「なんで?」


「響きが。」


「魔導王国アルエにしようよ。」


「いいじゃん。反論は?」


「・・・・・・」


「じゃあ決定な。ちなみに由来は?」


「俺のイニシャル。」


 かくしてこれから創られるこの国は“魔導王国アルエ”と名付けられた。




「次は何決めるの?」


 レックスが問う。


「国民をどうやって増やすかと、それをどうやって養っていくかだな。」


 レイの返答にフラッシュが口を開く。


「普通は人があって国ができるのに、俺たち人のいない国創っちまってるからな。」


「いいだろ。趣味なんだから、普通じゃないほうが楽しいじゃねえか。」


「魔獣もっと集めるのは?」


「魔獣って呼ぶのやめない?知恵があって理性のあるやつは魔族とかにしようよ。」


 デルタの発言にレックスが提案をするとレイはすんなりと受け入れて話を進める。


「レックス、魔族はもう召喚できないのか?」


「もうここにいるので全員だよ。しばらく共食いさせてたから数もかなり減っちゃったしね。また増やさないといけない。」


「人間入れるのはなし?」


 ギャップが問う。


「全然いいよ。むしろそっちのほうがいいし。」


「じゃあさ、奴隷っているじゃん。あれ攫ってくるのは?」


「奴隷も人の所有物だからな。」


「お前教会の金盗んでただろう。」


 ダリーがつっこむ。


「奴隷って国民じゃないでしょ?攫ってきても問題にならないんじゃないの?」


「奴隷もそれで満足してるやつらもいるし、連れてくるならちゃんと選んでからじゃないとだよね。」


 ギャップの発言に対し真面目に答えたのはデルタだ。普段まともなことが言えない故、その驚きに玉座の間は沈黙に包まれる。


 広大な部屋に7人。口を開くたびにその声が響き渡るこの部屋での沈黙は耳が痛いほどに静かだ。


「それか遊牧民とか吸収しちゃえば?」


 その沈黙を破ったのもまたデルタであった。そしてダリーがそれに続く。


「遊牧民って、遊しなきゃいけないから遊牧民なんでしょ。ここに留めるのはむりじゃない?」


「遊牧民じゃなくて小規模な部族とかを吸収するのはありだな。」


「それってスカウトしに行くの?」


 レイに問いかけたのもまたもやデルタだ。


「そうだな。それか襲って族長を殺してもいい。」


「りょうかい~」


「じゃあ国民は現状に不満を抱いている奴隷の誘拐とその辺の部族の吸収、あとは魔族で増やしていこう。」


 レイの決定に各々おっけ~、りょうかい。と返事をする。


「次にどうやって養っていくかだ。」


「まずは食い物だね。全部買ってくるわけにはいかないからな。」


「とりあえず畑とかは作らないとだよね。」


「それは間違いねえな。」


「じゃあ森をもっと拓いていかないとだ。」


「そうだな。レックス魔族たちに指示して街を広げさせてくれ。木は後の住居に使うから綺麗にそろえておかせろよ。」


「街ってどんな形にするの?」


「城を中心に居住区を広げて、その周りに畑だな。」


「円状にしなくてもいいなら城の後ろ側は森のまま残しておきたいんだけど。」


「なんでだ?」


「動物がいなくなっちゃうじゃん。」


「そうか。じゃあ城の後ろ側の森を残して、他は全部切り開いて街にしよう。」


 レイはレックスの意見を安易に受け止め開拓の指示を出す。


「じゃあ完成図は城の後ろに森があって、前には居住区、その周りに畑だね?」


「それでいいだろう。何か意見のあるやつは?」


 レックス、フラッシュ、レイ以外の4人は少々面倒な話になると途端に黙ってしまう。今回はフラッシュも異論はなかったようだ。


「それで、結局自給自足でどうにかしようってこと?」


「基本はそうだな。」


「開拓して畑を作って野菜が育つまではどうする?」


「狩りしかないだろう。」


「だよね。」


 ギャップとレイが話しているとレックスが席を立つ。


「俺もう作業に行くね。何か決まったらあとで教えてよ。」


「おう、たのんだぞ。」


 レイの言葉を受け歩いて行くその背中は相も変わらず小さいものだった。


「俺もそろそろ晩飯の調達に行くわ。ダリーも行こうよ。」


「いいよ。」

 

 続けてリグレットとダリーも外に向かう。


「とりあえずここの守備と経営はあの三人に任せて俺たちは当面国民募集だな。」


「お金もいるよね?」


 デルタが唐突に言う。家具等をそろえるのに稼いだ金をほとんど使い果たしていたのだ。


「いるわ。じゃあデルタとダリーは金策係な。明日から兎に角金を集めろ。ダリーにはお前から言ってくれ。」


「いいけど、どうやって?」


「そんなの自分で考えろよ。あと、外では顔を隠しておけよ。」


「まじで?じゃあ回収も運びもできないじゃん。」


「それ以外でどうにかしろ。フラッシュとギャップと俺はスカウト係な。」


 それぞれの係を決定し、会議は終了した。




 その日の晩、リグレットとダリーが獲ってきた巨大な猪で盛大な宴が催された。そこに集まったのはグリーンスキンが約100頭、巨大な狼ジャイアントゲイルが10頭、栗鼠の合成種ギガマロンが3頭、体長1m程の二足歩行の兎バトルバニー25頭と巨大な熊の“ゴリラ”の計140頭程の国民だ。


 その全てはもれなくレックスの支配下にあり、その場で7人の魔王に忠誠を誓った。


「国民に忠誠を誓わせるのってどうなの?」


 ダリーが小声で言ったのにフラッシュが答える。


「国民と言っても結局はレックスの使い魔だからな。今はそんなに気にしなくてもいいだろう。」


 宴は夜通し続き、20頭が命を落とし朝を迎えた。



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