それでも男たちは彼の者を蔑ろにする
「ごめん、もう店開ける時間だから帰るわ。馬車お前ら使っていいから。」
遺跡に入ろうとするとダリーが帰ると言い出した。
「いいけど、どうやって帰るんだ?」
「迎えが来るから心配しないで。。。ユイちゃんマーレさん呼んで。」
ダリーはレイに答えると、全員へ向かって、じゃあね。と笑顔で手を振る。そして、肩の上のユイと呼ばれた幼女が何かつぶやいたとたんに二人の姿が消える。
「じゃあ、まぁ、行くか。」
気を取り直し中の探索へと向かう。
遺跡の中は地上4階、地下は8階のつくりとなっていた。
「これさ、埋まってるよね?」
デルタが誰とは言わず問いかける。
「埋まってるな。」
答えたのはレイだ。更にリグレットが続ける。
「一回だけダリーにやってもらうのって無し?」
「あいつ決めごとを曲げたりするとうるせえからな。無理だろう。ここからはレックス先生の指示でとりあえず復興作業だな。」
レイの言葉に、注目が集まる。レックスはため息を一つ着くと、とりあえず、と切り出す。
「朝まで休憩。日が昇ったらその辺の魔獣集めてきてよ。使えるやつ作るから、そしたら中の掃除と、周りの木の伐採だな。」
「無職ばっかりで良かったな。片付くまで帰れねえと思えよ!」
『お前は仕事行けよ!』
デルタの軽口に全員が声をそろえて言うと。いつものような和やかな雰囲気に包まれる6人であった。
日が昇る。円卓会議をしたのが一昨日の晩、街を出発したのが一昨日の深夜、遺跡へ着いたのが昨日の晩、そして今日から作業が始まる。
馬車の近くに火を焚き、野営をした。普通は魔獣に襲われるのを恐れて見張りをつけるが彼らには関係ない。日の出前に起きたフラッシュが捕まえてきた魚を調理していると魚の焼けるにおいにつられて残りのメンバーもノソノソと起きてくる。
レックスはすでに作業に入っているらしく姿が見えない。
5人で朝食を済ませると遺跡の入口へと向かう。腹を満たした男たちは無駄に元気だ。大声で歌を歌いながら森を進んでゆく。ちなみにデルタは本職は放棄することにした。
「うるせぇよ!」
遺跡のほうからレックスの怒鳴り声が聞こえた。男たちは負けじとさらに大きな声で歌い出す。
「うるせぇよ!バカかよお前ら。魔獣捕まえるって言ってるだろ。そんなでかい声出したら捕まるもんも捕まらねえわ!」
「お前が一番うるせえぞ。」
デルタの軽口にレックスは頭から湯気を立てる。その足元には直径3mほどの魔法陣が描いてある。
「まぁいいや。とりあえず何でもいいからモンスター捕まえてきてよ。とにかくいっぱいな。」
『アイアイ、キャプテン‼』
小声でのレックスの指示にレイ以外の4人は元気いっぱい、応えて三々五々に走り出す。
一番最初に戻ってきたのはデルタだった。鎧から外したマントを風呂敷のようにし、何やらたくさん詰め込んで満面の笑みだ。傍から見ると小さなこぶがもぞもぞと動き回っているようで実に気持ちが悪いその光景にレックスも苦笑いだ。
「何捕まえてきたんだ?」
「いっぱい!」
デルタは馬鹿である。会話が成り立たないのはよくあることなのでレックスも大して気にはしない。
「とりあえずそこに出して。」
「無理だって!逃げちゃうよ。」
魔法陣を指さして言われたのに対して、デルタは焦ったような顔で答えると、じゃあそのままでいいから置いてくれ。とレックスが応対する。
風呂敷を縛ったまま魔法陣の中央へと置くと、レックスは陣の外から両手をかざし、デルタをちらりと見てから詠唱をするふりをする。
「えー、たくさんの小動物よ、混ざって、大きくなって、働きなさい。」
魔法陣が周りから青白く光り出し、やがて風呂敷も光に包まれる。光の玉となった風呂敷はゆっくりと3mほどの巨体へと姿を変える。そして発光が収まるとそこにいたのはマントをつけた巨大な栗鼠だった。その眼光は鋭く、腕は太く長大で、どう見てもデルタが捕まえてきたただの栗鼠を大きくしただけのものではなかった。
「栗鼠よ、今からお前の名前はバッツだ。俺の指示のもと死ぬまで必死に働くように。」
巨大な栗鼠はレックスの言葉に、仰せのままに。と答え、そして城の中へと向かっていった。
一連を黙って見ていたデルタは一言言ってまた森へと駆け出してゆく。
「詠唱ダサすぎね?」
と。
森の中には大した魔獣はいなく、捕まえてくるのは栗鼠や兎などの小動物、あとは大型の狼ゲイルウルフが数頭と大物はグラトニーベアが1頭だけだった。レックスはそれらを掛け合わせては名前を付けてゆく。ゲイルウルフ2頭とグラトニーベア1頭、兎5頭を掛け合わせたものには“ゴリラ”と名付け全魔獣の指揮をとらせることにした。
「しかしすごいな、レックスの能力は。合体させてでかくして、言葉まで話すようにできるんだもんな。」
レイが言うと、レックスは照れ臭そうにする。普段雑な扱いを受けているだけに褒められるのには慣れていないのだ。
実際7人の中でも契約した魔獣の召喚さえ済ませれば戦闘力はトップクラスだ。ギャップ、フラッシュ、レックス3人で一国を相手にできるというのもレックスが数を埋められるからというのが大きな理由だ。
「もう全然いないよー」
デルタがへとへとになりながら言うとレックスは、仕方ないな。と言って新たに魔法陣を描き出す。
「ゴブリンとかが居たら一番楽だったんだけどね。」
「俺はあんまり会いたくないけどね。」
灰色のローブの男が言う。
「ギャップってなんかされたことあるんだっけ?」
リグレットが問いかける。
ゴブリンは危険な魔獣だ。好戦的で人を襲う。雄の絶対数が多く、人の女をさらっては犯す。そして何よりも厄介なのがゴブリンに犯されると子を孕むということだ。言い伝えでは人の進化した姿らしく、人がゴブリンの雌を犯してもまた子を孕むということも分かっている。ほかにも、エルフから成るオークや起源は不明だがオーガも人との間に子を作ることができる。ゴブリンは他の人型の魔獣に比べ絶対数が多く、また徒党を組み人の村を襲うこともよくある話だ。
それ故ゴブリンに関する過去の話を聞くときは普通であればかなり気を遣う部分ではあるが、リグレットは軽々しくそんなことを問いかける。
「ないよ。人に似てるし殺すとき嫌な感じするじゃん。」
灰色のローブの男、ギャップはすんなりと返答する。
「召喚するから、ちょっと離れててね。」
レックスが足元に描いた魔法陣に両手を触れると、そこを中心に八方に光の線が伸び、さらにそこから横向きに五重の円を描く。円に囲われた部分から光に包まれた1~2mの大きさの人型のものが生えてきては外に向かって歩いてゆく。円から一歩踏み出すと体を包んでいた光は弾け中からは緑色の肌の魔獣が現れる。
「ゴブリンじゃん。なんで髪の毛生えてんの?」
デルタが問うと、レックスが得意げに答える。
「これ全部人が生んだゴブリンと人間の一部の掛け合わせだから。グリーンスキンね。全員名前もあるし雌もいるよ。」
グリーンスキンたちは魔法陣から出るとレックスのほうを向いて整列し指示を待つ。召喚されたのは約200頭。そのすべてが服を着て腰に剣を下げている。
レックスが今まで召喚するのはただのゴブリンだけだったためほかの5人は驚きを隠せない。
「その城の掃除ね。人が住めるくらい綺麗にして水道も通すから。あと周りの木切って、埋まってるとこも掘り起こして。中のでかいやつが指揮とってるからちゃんと連携してやってね。」
指示を聞くと全員が威勢よく返事をして駆け足で作業を始める。
「もうレックス一人で世界征服できちゃうんじゃない?」
リグレットが言うのに全員が頷いた。
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