第54話 ティアの想い


 アラスに言われて俺は風呂で身体を綺麗に洗い、お湯に浸かっていた。


 つまりこれって……アレだよな? 今夜そういうことをするってわけで……


 でも心の何処かでそれを楽しみに思ってる自分がいて…………ああ、もう! なんでアラスなんかとやるってのにこんな変な気持ちになるんだよ!


 考えただけでも顔が紅く染まり、お湯に顔を沈めた。



『それは恋なのじゃよ……すやすや……』

「ーーッ!? げほっ、げほっ!?」


 ティナの寝言ではない寝言に驚き、俺はお湯を吸い込んでしまい、咳き込んだ。


 これが……恋……? いや、そんなはずはない。俺は男だ。俺はホモじゃないんだ。男に恋愛するわけないだろ。



『デマシタァーーーー!!! TSっ娘テンプレートの【俺はホモじゃないから男に恋しませんよ】宣言!

 これを言ったTSっ娘は必ず親友くんに恋をするという運命が確約されるのデス!!』



 起きてんだろ!? お前寝たフリすら出来てねーじゃねーかッ!!

 そんなに言うなら少しは相談に乗れッ! あと親友くんって誰だッ!?


『いや、それもう恋だからさっさと親友くん枠であるアラスと結ばれてよ。……一晩でいいから』


 良くねーよ!? 何しれっと破瓜させようとしてんだよ!?


『【しれっと】じゃなくて【堂々と】の間違えよ。どうせこのまま死ぬんだからさっさと快楽に堕ちなさいよ』


 お前それでも王女か!? あと死ぬこと確定みたいに言うな!

 お前に相談するだけ無駄だったなッ! どうせこのまま流されるんだろ!?


『わかってんじゃん』


 うるさいっ! お前もう黙ってろ!!




『ZZZ……』


 古い表現だな。





 そろそろ出るか。


 俺は湯槽から上がり、アラスから貰ったバスタオルで身体を拭く。

 その後、『ドライヤー』と呼ばれる魔道具で髪を乾かす。


「はぁ……」


 俺は意を決して、お風呂場から部屋に繋がる扉を開ける。


 するとまるで不意打ちを狙っていたかのようには目の前に現れた。


「ティア、どうだ? 俺のは」

「ひゃあっ!?」


 ポーズを取るなポーズを! 前世の俺にも劣るわッ!

 でもやめてくれ……ビックリしたから……


「……どうした?」


 立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまい立ち上がることが出来なかった。


 なぜこのタイミングで…………


「腰が抜けて……」

「……そっか! 仕方ないな! うん!」


 嬉しそうに言うな!


 俺はあっという間に抱き上げられ、ベッドの上に放り込まれた。

 そして、放り込まれたことが原因でズレるバスタオル。俺の上に這いつくばるアラス。




 ――――――――こわい。




 始めて男性に対して心の底から恐怖した。男性というのはここまで恐ろしかったのかと……


「ティア……」

「ひうっ!」


 アラスが俺のまな板に等しい胸を触ろうとした時には限界が迫り――――――





「きゅうぅ……」





 ――――――気絶した。



「……はい?」






『諸君! 安心したまえッ! 物語内ではあと1週間、二人は同じ部屋で寝泊まりするのだッ!!

 若い男女がこれだけ同じ部屋に泊まるというのに何も起きないということがあるだろうかッ!? 否! 神殿にたどり着くまでイチャイチャしまくるに決まってるッ!!!


 次回!

 第55話 まさか何も起こらないなんて……


 お楽しみに!』



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