第53話 コルトキュル大帝国へいざ参る!


 あれからさらに4日が経過し、俺は本日をもってコルトキュル大帝国に出荷される。


「よし、行くか」

「は、はい……」


 俺はアラスたちと共に馬車へと乗り込み、出発する。

 今回、エドワードとエレノアは何か大切な用事があるらしく、付いて来られないようだ。

 早朝に挨拶をした時には、もう会えないのではないかと涙が溢れた。


 エドワードとエレノアはそんな俺を見るのが初めてだったので、驚いた表情をしたのちに優しく抱きしめてくれた。


 家族愛というのはああいうものだったんだな。初めて知った……


「なあ、ティア……逃げないか?」


 アラスから意外な言葉が出てきた。フレイヤとクレアは馬車を動かしているのでこの場にはアラスを止める者は居ない。

 彼の目を見る限り、俺が頷いたら今すぐにでも【転移】を使うように見える。


 だが、そんなことをすればエレノアたちに迷惑が掛かるだろう。あの二人に迷惑をかける訳にもいかない。

 俺は意を決してアラスに話す。


「ダメです。これは私に与えられた使命なんです。逃げるわけにはいかないんです。

 それに私が逃げたら他の誰かが犠牲になってしまいますし、お母様たちにも迷惑が掛かってしまいます。

 私は1人じゃありません。アラスもお母様やフレイヤたちだって居ます。それに……」


 俺は手に持っている刀を見詰める。


「この子も居ますので……何かあればすぐに頼らせて貰いますから、心配しないでください」

「……そうか」



 俺、こんなこと言ってるけど、ぶっちゃけて言うとめっちゃ怖いっす。


『台無し!』


 だって作戦だって立てたけど成功率半分ぐらいだぞ!? イヤだろッ!? 50%の確率で俺、また死ぬんだぞ!?


『人任せの癖によく言うわね……』


 いやいやいや!! 俺だって仕事するからなッ!?



 ◇◇◇



 その日は1日中馬車で移動していた影響で腰が非常に痛かった。

 こんな日があと1週間も続くとなると今すぐにでも家に帰りたいと思う。


「ティア、アラス。これ部屋の鍵ね。じゃあ私たちは部屋に戻るから、アンタたちも早く寝なさいよ」


 などと、のたまい、宿の部屋へと入るクレアとフレイヤ。

 俺は唐突過ぎて固まっていて、聞くタイミングを失ってしまった。


「え? どうしてですか?」

「話聞いてなかったのか? 二人部屋2つしか取れなかったから、結婚する予定だった俺たちが同じ部屋を使えば良いってことになっただろ?」


 あ、あれぇ? そんなこと言ってたかな?


『言ってた言ってた。……ティアは自分の国王を殺してる妄想に浸ってたけど』


 おい。そういうことは先に言えよ。まあ、なっちまったものは仕方ない。諦めて同じ部屋で寝るか。


 さすがにベッドまで同じっていうわけじゃあるまいし。


 と思い、部屋の扉を開けると部屋には大きめのベッドが1つあるだけだった。


『フラグ回収だけはホント早いわね……』


 高速だな。というかこれって…………


『【初夜】ってヤツね。

 じゃあ私は先に寝るから。おやすみ~』


 おいこら余計な気を遣うんじゃない! ……チッ! 逃げやがって!


「ティア、先に風呂入るか?」

「ではそうさせて貰いますね」


 俺がそういうとアラスは収納魔法からバスタオル1枚だけを寄越して入ってくるように仕向けた。


 ………………マジかよ。










「ティアが風呂から出る前に、俺もクレアたちの部屋でに風呂でも浴びるか」



「「アラスの変態!!!」」

「ヴォフッ!?」





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