第55話 まさか何も起こらないなんて……
翌朝、目を覚ますといつもの聖女服を着てベッドの上で寝かされていた。とりあえず脳をフル回転させて状況を把握する。
……そうだ。アラスどこだ?
辺りを見回してアラスを探す。すると部屋の扉が開く音がしてアラスが外から帰ってきた。
俺は近づいて――――――
「私の身体に何をしたァ!?」
「ゴフッ!?」
アラスの腹を思いっきり殴った。殴られたアラスは痛そうにお腹を抑えながら弁明を始めた。
「ご、誤解だ! 俺は何もしてない!」
「そんなことは聞いてません! さっさと全部吐き出しなさいッ!」
俺がアラスを地面に押さえ付けてその上に乗るとアラスは言葉を紡ぎ出した。
「ティアが気絶したあと、バスタオルを剥いでその服を着せました」
「……それだけですか?」
少し圧をかけて話してみるとアラスはその続きを語った。
「そのあとスカートを捲ってオカズに……しました……」
「そうですか…………お疲れ様でした」
俺は底冷えた声でアラスに礼を言って拳を構える。今度ばかりは闇魔法を纏わせて威力上昇をさせる。
「まって! 俺をオカズにしていいから待って!」
「そんな理屈が通るとお思いですかッ!?」
俺はアラスの後頭部を殴り付けた。
◇◇◇
「で、何も無かったと……」
「「はぁ……」」
クレアとフレイヤにため息をつかれた。今日は馬車の運転をアラスに任せてあるので、ここは女子会と化している。
「だって怖かったから……」
「「(ティアの涙目、超かわいい……)」」
フレイヤは俺のことを自分の膝に乗せて後ろから抱きしめてきた。
「最初はそんなもんよ。アラスだってティアと離れたくないって必死なのよ。だから受け止めてあげて。アラスはティアに無茶なことはしないだろうから」
「うん………………んんっ!?」
いま……何かおかしくなかったか?
なんで俺とアラスが結ばれること前提でお話されているんだ?
『ZZZ……』
お前の登場する隙間がないのはわかるが、こんな所で無理やり出てこなくていいから。引っ込んでろ!
◇◇◇
その日の夜のこと――――――
今日も俺はバスタオル1枚である。
……アラスのヤツ、学習力無さすぎだろ。
「ティア、その……昨日は悪かったな。お前の気持ちも考えなくて……」
やれやれ、ようやくわかってくれたか……
「まさかお前が筋肉苦手だったとはな……」
……はい? いやっ、間違ってないぞ!?
たしかにそうだけどそれは違くないかッ!?
「昨日は魔法で筋肉を盛ってたんだ。だから実際はこんな感じだ」
いきなり上裸になるアラスに俺は肩を震わせた。
彼の筋肉量は昨日のマッスルとは異なり、今日は典型的な男性の肉体だった。
「だからティア……」
アラスは俺に迫り、俺の両肩を掴んだ。
「俺はお前を愛してる」
キュンと胸が締め付けられるような感触が俺を襲ってきた。
「んっ……」
そして、アラスの唇が突然、俺の唇を塞いできた。
しかもアラスの舌が俺の口の中にまで入ってきたのだ。
いつもの俺なら果てしない嫌悪感から間違えなくアラスを殺してただろうが、なぜか今はそんな気持ちにはなれなかった。
むしろもっとアラスが欲しいと身体が求めているかのような……そんな感じがした。
「あらす……」
その夜、俺はアラスに全てを委ねた―――
『ほらね。結ばれたでしょ? 次回予告の題名で勝手に判断するのは良くないと思うよ。それに、略題だしね。
こうして二人は結ばれたのでした! めでたしめでたし!!
【第55話 まさか何も起こらないなんて……誰が決めた?】 完』
『……でもね。結ばれたからと言って、そのままハッピーエンドになると思う?』
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