第47話 魔力喰らいのティブロン



「いきますッ! 【極光】よッ!」


 凄まじい光が水面を照らす。相手は魚だ。頭だってそれほど良くない。混乱させることさえ出来ればそれで充分だ!



「……あれ?」

「どうかしたのか?」


 いつもなら20秒はもつ光がわずか5秒も経たない内に消えてしまった。


「【植物球根プランターコーム】」

「フレイヤ、魔法を撃つのを止めてください」


 フレイヤが俺の真横で【岩弾丸】のフレイヤVer.を撃って、猛烈に水飛沫を上げていたので、止めさせた。


 ……フレイヤのせいでめっちゃ濡れたんだけど。


 だが、それよりも驚いたのはサメのようなヤツらが一匹も死んでおらず、傷一つついていないことだった。


 アイツらは俺たちの魔法を吸い上げていたのだ。

 そして、魔法吸収する魚の生物と言われればこの世には1つしかいない。


「『ティブロン』ですか……」

「でもそれって!?」


 クレアの声に俺は続けて話す。


「はいっ、北海の方にしか生息してないはずです。なので、誰かがここに運んで来たということになります。

 ここは環境的にも北海と同じような気候をしてますので繁殖も可能だったはずです」


 今さらだが、俺たちが住んでいる国は北海から少し離れた場所にある西海と呼ばれる海の真横だ。

 ……こんなこと、どうでもいいな。


「全く、誰がそんな面倒なことを……」

「とにかく魔法は通用しません。むしろ餌になるだけです。


 なので…………頑張ってくださいね♡」


「「刀使えよ!?」」


 

 俺とフレイヤが日光のよく当たる岩の方に向かおうとすると、アラスとクレアからツッコミが飛んできた。


 言ってはなんだが、俺はクレアに『自衛』として刀の扱い方を教わったぐらいだ。正直強くない。むしろ弱い。俺から魔法を外せば残るのは『優しくて清い聖女』だけだ。


『……魔法消そうか? そうすれば腹黒聖女じゃなくなるよ?』


 バカ言え、そんなことしたら復讐が出来なくなるだろ。大事なのは【転移】が使えるか使えないかだ。


『…………そう』



 というわけでティブロンは物理攻撃には雑魚同然なので、前衛であるアラスとクレアに任せて俺はフレイヤのせいで濡れた服を乾かしていた。


「まさかこんな形で水着を着ることになるなんて……ひくちっ!」

「このままでは風邪を引いてしまいますし、先に戻られてますか?」

「いえ、これぐらい大丈夫です。それにあの二人が戦っているのに私だけ帰るのも悪いですし、何かあってからでは遅いので……」

「そうですか。ムリしないでくださいね」



 俺は先ほど買って、「今日は使わないな~」と思っていたはずの水着を着て、フレイヤに温めて貰っている。


「このローブ温かいですね」

「では今だけは貸してあげますね」


 フレイヤはそう言うとローブを脱いで俺に着せてくれた。

 サイズこそ合ってないものの、先ほどとは段違いの温かさがあった。


「ありがとうございます……」




 それから数分後、無事討伐を終えたアラスたちがこちらの方までやって来たので、最終確認ということで、全員で水面を覗いた。


「もう居ませんね。あとはギルドに報告して依頼達成ですね!」

「ああ、そうだな」


「…………あっ、手が滑りました~♪」

「は?」


 フレイヤが突然アラスを押し、アラスはそのまま俺を捲き込んで水の中に落ちた。


「あらあら、大変ですね~。このままではお二人とも風邪を引いてしまいます。私たちは街まで送って戴ければ自力で帰りますので、先に戻っててくださ~い」


 とてもわざとらしい風潮で言ってくるフレイヤ。もう見えたよ。はいはい……


「この私にアラスとお風呂に入れと仰るのですか?」

「あら? 私は一切そんなこと言ってませんよ? そんなことを考えるなんて次期聖女様もエッチなんですね~?」


「えっと、その……俺はエッチなティアも大好きだからな!」


 は、嵌められた……!



 というかお前みたいな男に好かれるとか誰得なんだよ!?






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