第36話 闇に歠まれよ狂いし戦士
◇◇◇
私の名はジンバー・ティッシュ。何処にでもいる普通の平民だった。
昔から重い税に苦しめられていた父と母は私が幼い頃に亡くなり、長い間私は1人で剣の鍛錬をしていた。
父は王国軍の騎士だった。私はその格好いい父の姿に憧れ、1人になった後でも毎日欠かさず剣を振り続けた。
そんなある日のことだ。王国の人が私の力を求め、私の元まで寄ってきた。
王国の人々が私を必要としている。
私は行くと答え、王国軍への配属が決まった。
王国軍に入った当初は新人とか言われて色々雑用をやらされていたが、それから1年後に戦争で私の実力を知った者はすぐに態度を改め、徐々に仲良くなっていった。
だが、それでも私は父を越えるような騎士になりたいという願いが変わることはなく、日々鍛錬を積み重ねた。
そして、気がついたら彼らを仕切る騎士団長にまで上り詰めていた。
私は父を越えることが出来たのだ。
その時は非常に気分がよかった。たまにはと思い居酒屋に行った。
それが悪夢の始まりとも知らずに――――
その日、私は酒に酔った勢いで1人の女性に手を出してしまったのだ。
もしこんなこと国王にでも伝われば、今までの私の苦労は全て無に返る。それだけは阻止しなければならなかった。
唯一幸運だったのは彼女が私に恋をしていたことだ。私は彼女と結婚すれば全てが解決する。そう思った。
そんな時だ。あの忌々しい女が私に接近してきたのは――――
『あなたに纏わりついてるあの女、私が消してあげる♡』
そのセリフを残して私の元を立ち去って行った女。私は何かの冗談だと思っていた。
だが翌朝、私が彼女の様子を見に行くと彼女は無惨にも殺されていたのだ。
それも短刀のようなもので両手両足が切断されて彼女がどれほど苦しんだものなのか。
私は国王に言ってみたが、国王はまるで始めから知ってたかのような顔をしていた。
それから数年間、私が調査してみるとやはりあの女が絡んでいた。
あの女は国王の弱みを握っていたのだ。あの女が国王を利用して誰かに殺させたのだ。
だが、さすがは国王というべきか誰が殺したかという書類関係は一切出てこなかった。
国王は脅されていた。それはあってはならないことだ。
国王の脅しすらも利かない人物は誰かと考えた時、私は1つの結論に至った。
――――『聖女』だ。
私は次期聖女が産まれたという噂を聞き、現聖女と英雄にコンタクトを取り、なるべく仲良くしようと考えていたのだが、英雄というのが思ったよりも会話が出来ない人物で仲良くなるのは非常に困難だった。
こればかりは計算外だった。英雄ともあろうものが、まさかコミュ障だったとは。
ならば聖女の方にと思ったが、彼女は既にフレイヤという若手の女魔術師に興味があったようで英雄以外の男には興味を示さなかった。
考えてみれば聖女というのは成長するまで男と接触したりしない。彼女の行動は当たり前なものだった。
私は時を待つことにした。次期聖女様が女性らしく成長するその日を待ち望んで―――
それから八年が経過し、次期聖女であるティアは冒険者学園へと通っているという情報が入った。
私は早速彼女に会うため、学園へと向かった。
「王国軍騎士団長ジンバー・ティッシュ、ここに参上致しました。
ティア様、どうかこのわたくしめに付いてきてくださいませんか?」
私は彼女に手を差しのべた。普通ならばこの騎士団長のお誘いを断ることなどしないはず。
期待して手を差しのべていたのだが、彼女は何故か私の肩を掴み、笑顔を向けた。
すると突然何処か知らない場所に移動していた。
そして、私は彼女の取った行動を見て、目を見開いた。
あの女が、彼女に神へ捧げる供物を渡していたのだ。
そう、既に彼女はあちら側の人間だったのだ。
そう悟った時には既に遅く、私はあの女に捕まった。
そして、私は彼女が残した最後の言葉を聞き、嘗てないほどの深い怒りの感情を覚えたのだった。
「どうか、お幸せに暮らしてくださいね♡」
欲しい……あのクソ聖女に産まれてきたことを後悔させてやることができる力が……例え魔法が無くとも、クソ聖女を簡単に殺すことができる力が欲しい……っ!
『汝、力を求めるか? ならば我が力を貸してやろう』
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