第35話 冒険者になるための試験 ~ウルフの群れと異世界人~


 イノシシ狩りに成功した俺は血ぬきの間、1人で木にもたれ掛かる形で座り、暇を潰していた。


 心臓が止まる前だったから良かったものの、止まってたらもっと時間掛かってただろうな。

 血ぬきが終わった後は【転移】で学園まで運べば楽勝だな。


 その時、張っていた罠がに触れた。

 そして、気がついたら黒い狼のような魔物に囲まれていた。


「ウルフの群れ!?」


 くそっ! 臭いに釣られて来たのかッ!?

 俺は刀を引き抜いて戦闘体勢に入る。


「たあっ!!」


 ウルフの群れを効率良く倒す方法はリーダー格を潰すことだ。だから、ある程度ウルフを倒し、ボスを見分ける。


「お前かっ!」


 ウルフのボスを見切り、俺は短刀を命中させた。

 ウルフのボスが倒れると他のウルフたちは一目散に逃げて行った。



 そろそろ血ぬきも良さそうだし、学園まで戻るか。


 俺は【転移】を発動させて学園まで戻る。


「ただいま戻りました」

「討伐して血ぬきしたのか……ティア様、合格です。あとは他の者の帰りをお待ちください」


 合格判定を貰ったので、俺は教官から少し離れたところでイノシシを解体する。


「俺も手伝うよ」

「ありがとうございます。ではこちらを使ってください」


 俺は青年……もといアラスにナイフを渡して解体を手伝ってもらう。

 1人ではこの肉の量は食べきれないし、これは卒業祝いということにしてみんなで食べようじゃないか。


『おおっ、珍しくティアが聖女らしいことを言ってる』


 お前少し黙ってろ。刀で解体するぞ。


『それだけはヤメテ』


 それからお肉を解体した後、アラスの魔法でお肉を凍り漬けにして貰い、保冷した。


 前から不思議だったが、コイツ何属性魔法使えるんだ? 今までで既に8属性ぐらい使ってるような気がするんだが……


「ティア、1ついいかな?」

「はいっ、なんですか?」


 真剣な表情でアラスが俺に聞いてきた。

 何か世程大切な話があるのだろう。


「実はな。俺……

「はい?」


 え? コイツ今なんて? 異世界から……来た……?


「俺は普通の学生だったんだが、ある日足下に魔法陣が現れてな。気がついたら森の中で倒れてたんだ」


 アラスは自分の身に起きたことを俺に話してくれた。



 簡単に纏めると誰かの召喚ミスだな。それで冒険者学園に借金して通ってたらしい。


 まあ、アラスほどの実力者なら借金ぐらい余裕で返せるだろ。

 話が逸れてしまったが、肝心の相談内容は……


「元の世界に帰る方法ってないのか?」


 その質問に対しての答えを俺は考え、1つずつ整理して話す。


「まず異世界というのが何処に定義されているのかって所ですね。この星とは違うにあるのか、それとも違うにあるのかです」


 この二つはかなり重要な問題だ。分かるだけでも元の世界に帰れる確率が飛躍的に上がる。もしくは――――――


「前者の場合は簡単です。【転移テレポート】すれば終わりですが、後者の場合は時間軸に干渉が必要となりますので……その……」


 俺は言葉を紡いだ。


「時間系の魔法があれば、もしかしたら帰れるかもしれませんね」


 ウソだ。時間に干渉するだけじゃ全然足らない。本当はもっと多くの魔法が必要。

 それも数億人に1人ぐらいが持つモノの魔法が――――


「帰れるといいですね……」

「そうだな」




 この時、俺は思いもしなかった。

 森の中で1人、血眼になって俺のことを探す男がまさかあんなことをするとは――――






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