第25話 イケメンさんには! ご誘拐願おうか?
イズにお願いをされた翌朝、俺は【転移】で自宅近くにある墓場までやってきて、日課であるお墓掃除をする。
『私、この時間だけはアンタが聖女だと感じられるわ』
いや、普通に聖女だけどな? 前世の記憶が清々しいぐらい妨害しているだけで、もしこの記憶が無かったら普通の聖女だったと思うぞ。
『自分で言うのね……』
「これでよしっ! 今日も良い日になりそうですね」
バケツと雑巾をいつも通り倉庫に片付けて家に顔を出す。
「お母様、おはようございます」
「おはようティア。これ昨日収穫できたビワですよ。フレイヤさんたちにも食べさせてあげて」
エレノアからビワを受け取る。実家で採れるビワは非常に美味しくて毎年楽しみにしているのだ。
「はいっ、わかりました。では朝食を作らないといけないので戻りますね。また明日。お父様によろしくお願いします」
「任せておいて。いってらっしゃい」
「いってきます」
俺は【転移】を使って寮に戻った。
◇◇◇
なんと不思議なことに謎の記号を挟んだだけで昼休みになっていた。
「これは美味しいわね……」
「ですよね! ウチの自家製なんですよ!」
クレアに自家製ビワを食べさせて自慢していると教官が医務室までやってきた。
「ティア様、午後の授業は騎士団の団長様が来られるので、着替えは無しでお願いしたいのですが……」
「はいっ、わかりました」
「では失礼します」
教官が立ち去って行くのを眺め、医務室から消え去るのを確認すると俺は小さくタメ息を吐いた。
なるほど、あのイケメンが来るのか。なら引き受けて正解だったかもな。
「騎士団長って?」
「王国軍の騎士団所属で今年28歳になる爽やか系超イケメンで、厄介な宮廷魔導師に好かれている運のない男です」
『褒めてるのか貶してるのかわからないセリフね……』
彼の運の無さはそれだけでは留まらない。仲間にギャンブルへ誘われ大失敗、実家の農作物は全て枯れ、馬に乗ろうとすれば馬が逃げる。
そして今日、ここで俺に誘拐される。
『随分変わった人ね……そんな人が騎士団長なんてこの国どうなってるのかしら?』
まあ、本人は秘密主義だからな。隠し事には向いてるから名ばかりの存在だろ。
実力だって前世の俺よりちょっと強いぐらいだったしな。
『基準がわからないわ。ちなみに魔物で例えるとどんな感じ?』
俺がゴブリン、アイツがドラゴンって所だな。
『天と地の差じゃないッ!? 何処がちょっとよッ!? 圧倒的じゃないッ!』
でもそんなもんじゃね? 俺とアイツじゃまず職業が違うんだ。夜中にひっそりと現れて人を殺すヤツが白昼堂々、剣を交えて戦うヤツに勝てる訳ないだろ。
『白昼堂々と王子の後ろで包丁を突き刺そうとしたのはどこの誰よ』
……それはそれ。これはこれ。
『適当すぎるでしょ!?』
◇◇◇
午後の授業が始まり、今回のターゲットとなる不幸な男がやって来た。
「王国軍騎士団長ジンバー・ティッシュ、ここに参上致しました。
ティア様、どうかこのわたくしめに付いてきてくださいませんか?」
と言って片膝をつき、俺に手を差し出してくる不幸な男、ジンバー。彼はいったい何を言っているのだろうか?
俺は現状の理解が全く追い付けず、ただ首を傾げているだけだった。
フレイヤに耳打ちで問いただすとフレイヤが説明してくれた。
「簡単に申しますと手を取れば彼と共に冒険に出て、結婚です。取らなければ毎日のように彼が押し寄せてきます」
うわっ、なにその地獄展開。
『こんなヤツを嫁にするなんて、この人もついてないわね』
やめろ。誰が地雷女だ。とりあえずコイツをイズに出せば全て解決すると思うから、つき出すぞ。
『はいはい、がんばれー』
とりあえず手を取らないようにして、俺はジンバーの肩を掴む。
「「「ん?」」」
「【
全員が呆気に取られているうちにジンバーを【捲き込み転移】してイズのお部屋へとご案内する。
「待ってたわよぉ? ダーリン?」
「うぎゃあああああああっ!!!」
突然悲鳴を上げて怯え始めたダーリンことジンバー。大変申し訳ないが、俺はお前と結婚するつもりはない。イズとラブラブ(笑)生活でも送ってろ。
「はいっ、ティアちゃん。約束のイーリス様への御供物よ」
「ありがとうございます」
御供物の箱の底に短刀があるのを確認してから受け取る。さすがにこんな取り引きを見せる訳にもいかないしな。
「騎士団長様、申し訳ありません。
私、男性と結婚するつもりはないのです。ですから……」
「どうか、お幸せに暮らしてくださいね♡」
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