第23話 うわっ、ヤンデレつおーい


 勝利の希望であったはずの青年が三体目のキングサーペントを連れて俺の元まで逃げてきた。

 俺はいったいどうしたら良いのだろうか?


「ティア、コイツ俺の魔法を撃っても通用しないんだ! お前の聖女パワーが俺には必要なんだ! 二人の力でアイツを倒そう!」


 必死に力説してくる青年。だが青年よ。キミはコレを見ても言えるかな?


「実は私も同じモノを引き連れて困っていたところなんです」


 後ろから二体のキングサーペントが姿を現す。その時、その青年はバカ丸出しのような顔をした。


「……逃げるか」

「どうやってですか?」


 三体のキングサーペントが俺たちを囲み、完全に逃げ場を失っていた。


「隙は作れないのか?」

「1秒ぐらいならいけますが、キングサーペントは非常に速いです。一体ならともかく三体ともなると……」

「詰んだな。どうする? しりとりでもするか?」


 コイツ、遂に頭が壊れたぞ。誰が悲しくて死の間際にしりとりするんだよ。アホか。


『りんご!』


 始めるなアホ。お前は少し黙ってろ。お前が喋る度にこっちの魔力が喰われてんだよ。


 さて、どうするか。この状況、かなりマズいぞ。いっそのこと【召喚】で国王を呼び出して生け贄に捧げるのもアリだが、それでは面白味に欠ける。

 あと国王は俺が殺さないと気が晴れない。


 かなり無茶振りだが、やれるだけやってみるか。無理だったら諦めて【転移】で逃げよう。


「よしっ……」


 俺は刀を構え、魔力を込める。イメージに必要なのは闇だ。俺はこの闇でアイツらを討つ!


「【呪縛の貞節カースド・バイオレット】!」


 魔法を放つと刀に闇が纏わり付き、その刀を持って一体のキングサーペントに斬りつける。

 するとその瞬間、刀による攻撃を受けたキングサーペントが暴れだし、他のキングサーペントたちに攻撃し始めた。


「よしっ! 先に逃げてください。他の方たちも見掛けたら逃げるように伝えてください!」

「でもそれだと!」

「大丈夫です。私には【転移】があります。いざとなればそれを使って逃げますので!」

「……わかった。無茶はするなよ」


 青年は木々の中へと走って行った。

 俺が使った闇属性の【呪縛の貞節カースド・バイオレット】は『恋心』を弄る魔法だ。


 俺の攻撃を受けたキングサーペントは自身の抱いていた感情をねじ曲げられて強制的に【歪んだ愛ヤンデレ】に変換されたのだ。

 その結果、キングサーペントは嫉妬と深い愛により二体のキングサーペントを攻撃し始めたのだ。

 今のキングサーペントの心情を表すならこうだ。



 『イヤッ! ヤメテッ!』


 『おいやめろ! 悪かった! 俺が悪かったから勘弁してくれ!』


 『アハハ! 許す? 何を言ってるの? この女があなたをたぶらかしたのよ。だからこの女を殺して、二度とあなたが誑かされないようにあなたを殺して私も死ぬの! これで私たちは本当に愛し合えるのよッ!』



  という感じだ。

 ……うむ、なかなか修羅場展開になってるな。よきよき。


『やり方がエグいっ! これが聖女様のやることなのッ!? 聖女様にはヒトの心がないのっ!?』


 そういえばそのセリフ、あのクソ王子も言ってたな…………考えたら腹が立ってきた。せっかくだし、殺しに寄って行くか。


『喫茶店に行くノリで殺しに行こうとしないで! 仮にも弟なのよ!? 全く記憶にないけど!』


 じゃあ別にいいじゃん。よしっ! 思い付いたらなんとやらだ! クソ王子を殺して国王に恐怖を与えよう!


 じゃあ、キングサーペントさんたち。




「思う存分、殺し合ってくださいね♡」





 俺は【転移】を発動し、その場から立ち去って行った――――――――

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