第20話 刀? それは武器じゃなくて暇潰しの相手だろ?



「ティア様、朝ですよ」

「せんせぇ、おはよぅ……」

「ふふっ、ティア様が寝坊なんて珍しいこともあるんですね」


 ん……? いま、なんじ……?


 まだ完全に覚醒していない頭で考え、枕の上にある時計を手に取り、時間を見る。


 すると、時計の短針は9という文字をさしていた。


「ちこくっ!?」


 冒険者学園の授業は9時30分からだ。それまでに食事を済ませて、弁当作って、身嗜みを整えて教室に着かなければならない。


 俺は慌てて起き上がり、寝巻きから聖女の服に着替えて朝食のパンを貪る。その隙にフレイヤは俺の髪を梳かしている。


「お弁当も作っておきましたので、あとで食べてくださいね」

「先生、ありがとう」


 パンを食べ終えるとココアで流し込み、身仕度を済ませ、教室に【転移】する。


「ティア様が遅刻ギリギリなんて珍しいわね。どうしたの?」

「ちょっと寝過ごしただけです」


 だいたい四時間ぐらいだな。うん、そんなに寝坊してないな。


『大寝坊でしょ……』


 ティナから呆れた声でツッコミが入る。


 『妖刀 ティルスティア』に吸収されたティナは俺の魔力を勝手に貪ることで、【念話テレパシー】という魔法で俺とのみ、脳内で会話することができるらしい。


 国王を殺すという同じ目的を持った唯一俺の本性を出せる相手だが、その反面、今の俺は勝手に魔力が吸い取られて脳内ツッコミが飛んでくる状態だ。


 今日寝坊したのもティナが俺の魔力を勝手に貪り尽くしたのが原因だろう。


『勝手に人のせいにしないッ! アンタのことバラすわよッ!』


 やれるもんならやってみろっ! むしろやってみせろッ! 正体バレた方が国王を殺り易そうだしな!


『聖女様ってこんなこと考えてたのね……』


 そんなわけないだろ。国王を殺すなんてこと考えてるのは俺だけだよ。


『それはそれでどうなのよ……まあ、私としてはありがたいからいいけどさ』


「ここの問題を……ティア様、お願いします」

「はっ、はいっ! 金貨二枚と銀貨六枚、銅貨が五枚です」


 授業始まってたのかよ。全然気づかなかった……


『計算早くない?』


 まあ、国王の財布管理してたの俺だしな。こっそり使ったこともあるけど。


『それって犯罪じゃ……』


 こういうのはバレなきゃ犯罪じゃないんだよ。だいたい、断頭台に立たされて殺されたんだぞ。きちんと罪は償った。


 ……罪をきちんと償えばイーリス様も許して戴けます。だから国王は私に殺されることでイーリス様からお許しを戴けるのです。


『急に聖女っぽくならないで。あと後半部分は私怨でしょ』


 まあ、そうだけど……


『アンタ、聖女の癖してイーリス様信じてないでしょ?』


 ギクッ! そ、そんなことはな、ないぞ!


『図星か。まあ、殺される直前とか神様に裏切られた気がするよね』


 だよな! やっぱり殺されると神様とか信じられなくなるよな!

 でもこうして転生してるってことは国王を殺すチャンスが貰えたってことだから、良い神様もいるんだな。


『聖女がしれっと神様信じてません宣言してるんじゃないわよ』


 あははははっ…………


 こうして俺は退屈な授業時間を潰す道具を手に入れたのだった。



『せめて刀として使って!』




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