第17話 ティア、ついにバレる


 週末、名も知らぬ青年に食べ物を奢って貰うため、フレイヤの許可を戴こうと相談しに行ったところ……


「若いっていいものですね。私みたいな独身のおばさんに相談してくるだなんて随分いいご身分ですこと。ゆっくり楽しんでらっしゃいませ」


 ――っと、なんかスゴい皮肉を言われた。

 確かフレイヤってまだ二十歳ぐらいだったと思うが……まあ、本人がおばさんというのならおばさんなのだろう。



 ◇◇◇


 そして、約束の日がやってきた―――――

 

「お待たせしました」

「お待たせし過ぎたかもしれません!」


 俺が待ち合わせの場所に行くと既に青年が居たので、青年に話し掛けると嘗て経験したことのないほどに意味の分からない返しがやってきた。


 ――――コイツ、俺にいったいどうしろと言うんだッ!?


「ああ、ごめん。俺の国ではこれが基本だからつい言っちまっただけだ。気にするな」

「そうなんですか。随分キチ――――エキセントリックな会話をなさるのですね」


 あっぶねぇ…………!!!

 あと少しでキチガイとか言うところだった! 俺の聖女像が崩れさる直前だったな。過去最高に危なかったぞ。


「いま……キチガイって――――」


 聴かれてたァァアアア!!!

 不味い。コイツを生かしておくわけにはいかない。コイツは今すぐ殺すっ!


「【岩弾丸ストーンバレット】!」

「ちょっ!? マッ!?」


 まさかの魔力操作だけで弾かれた。


 今のは周囲の魔力を操り、圧縮することで誰でも簡単に作れる壁とても柔らかい壁なのだが、それに意図も容易く弾かれてしまうと俺の魔法が通用しないということになる。


 コイツはいったい何者なんだ…………



 嘗てない恐怖から立っていられず、ペタリと地面に座り込み、女の子座りの体勢になってしまった。


「えっと……ティアも色々大変なんだな。気にするな。今のは誰にも言わないし、俺はお前を傷つけたりしないからさ」


 誰にも言わないと言ってくれただけで少し安心した俺は青年の差し伸べた手を掴み、立ち上がる。


「ごめんなさい……」

「気にするな。よし、じゃあ行こうぜ」


 俺は青年と王都を観光して回る。

 すっかり名前を聞くタイミングを逃してしまい、未だに名前を呼べてないが、別に呼ぶ機会も少ないだろうし、知れたら知れたでいいか。


「ティアはああいうの食べたことあるのか?」


 青年がたこ焼きの屋台を指を差して俺に訊ねる。

 たこ焼きなんて前世で酒のつまみ程度に買うぐらいにしか思い出にない。だが、ここの屋台のたこ焼きはカリッとしていて、食感が堪らなく美味なのだ。


「食べますか?」

「そうだな。たこ焼き八個入りを1つくれ」

「あいよ」


 青年は屋台のおっちゃんにたこ焼きを頼むと屋台の上にある看板を睨んでいた。

 何かあるのかと思い、俺も見てみるがそこには屋台の名前である『白金プラチナだこ』の文字があるだけで特に何もなかった。


「それにしても今日は人が少ないですね」


 おっちゃんがたこ焼きを作ってる間、俺は青年と適当に会話するため、話題を切り込んだ。


「確かに……何かあったのか?」


 青年は屋台のおっちゃんに聞く。

 この辺りはいつもなら多くの屋台で賑わっており、常に人集りが出来ているという状態なのだが、今日は屋台数も少なく、通行人も殆ど居なかった。

 余程のことがあったのだろう。


「最近『瘴気の森』から『瘴気』が流れて来てるんだ。だからこの通り、外に出る人が少ないんだ」


 瘴気の森か……また面倒な予感がするな。


「なあ、瘴気ってなんだ?」


 青年が俺に訊ねてきた。

 まあ、聖女を知らないのだから瘴気を知らなくても不自然ではないな。仕方ない、軽く教えてやるか。



「『瘴気』は吸い込み過ぎると魔力が暴走して爆発する危険な物質です。瘴気を消すには光属性の魔法か聖属性の魔法が必要になるのですが……」

「光属性は聖女様で、聖属性は神官様がごく稀に持っている希少な属性だ。それなりの人数を集めるのは厳しいだろうな。

 まあ、聖女様なら何とか出来なくないかもしれないが――――」


「聖女は各国の生命線だから、そう易々と外に出せないというわけか……」



 このまま瘴気を放置すれば現在聖女であるエレノアが行くことになるのは間違えない。だが、エレノアの魔力量はそこまで多くない。瘴気に呑み込まれてしまうのは目に見えている。

 仕方ない、ここは娘らしく親孝行するしかないか。


 俺は覚悟を決めて深呼吸をして言った。



「……私がやります」



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