第15話 謎の青年の正体は……
「えっと、ティア……さま? でいいのか……?」
俺は黒い髪と黒い瞳を持った謎の青年を少し眺めたあとに返事を返す。
「ティアで構いませんよ。それで何か御用ですか?」
俺はその青年を医務室の中に入れてテーブルに座らせ、要件があるかを聴きながらお茶を淹れる。
「ああ、いや。聞きたいことがあって……」
「はいっ、構いませんよ」
俺は青年とクレア、フレイヤの三人にお茶を差し出す。
するとクレアがお茶を口に含んだ。
「聖女ってなんだ?」
「ブッホォッ!?」
クレアが突然お茶を吹き出した。その光景を見ていた三人が同時に肩をビクつかせた。
俺は近くにあったタオルでテーブルを拭き始めるとクレアが自分でやると言い出したので、任せることにした。
「【聖女】というのはこの世界で四つの属性を操ることができる成人した者のことを示します。余談ですが、聖女の血筋は昔から女性しか産まれないらしいです」
「それで聖女は何か役割とかあるのか?」
青年の質問に続けて答える。
「役割というのはありませんが、強いて言うなら王家の抑止力と言った所でしょうか?」
「抑止力?」
「【聖女】というのは権力だけで言えば王族を超えています。
ですが、聖女は産まれ持った環境から権力というのに興味がないんです。皆が幸せならそれで充分です。
なので王族が民を苦しめるようなら……」
俺は少し声が低くなっていた。やはり聖女として育てられたからなのか、聖書ばかり読まされていたからなのか、よく知りもしない他人のことすら家族のように思ってしまう。
黒髪の青年はゴクリと唾を飲み込み、何かをブツブツと言っていた。
「絶対君主制に見えるが、この国はこの国なりに進化しているということか……」
絶対君主制か。まあ、実際間違ってはないさ。王族だって聖女の知らない所で勝手に処刑してるしな。
エレノアに俺のことをそれとなく聞いて見たが、この国ではもう百年以上、権力によって殺された人は居ないらしい。
わかりきっていることだが、王族は隠蔽しているのだ。だが、こんなことは容易に口外する訳にもいかない。コイツが王族の関係者かもしれないからな。
「というかアンタ、そんなことも知らないの? こんなの常識でしょ?」
「ああ、いや。俺、遠くから来たばっかりなんだ」
俺はその青年の言葉に首を傾げた。それはクレアとフレイヤも同じのようだ。
「聖女は各国に1人はいるので知らないはずがないのですが……」
「えっ? 俺の国では居なかったが……」
は? 聖女が居ない……っ!?
「何処の国ですかッ!? 詳しく教えてくださいッ!」
俺は青年に迫って訊ねる。聖女が国に居ないということはその国では治癒力が低すぎて流行り病が起きた際に殆ど対策が出来ないということになる。
それに、治癒力が低いということは他の各国にバレたらそこは国として扱われず、領地の奪い合い……つまり、戦争に発展する。
そうなれば多くの人々の命が失われる。
そんなことを聖女として許して良いはずがない。
「えっと……俺の国には行けないんだ」
え? 行けない……? どういうことだ?
「【エルフの国】ですか……?」
フレイヤの発言で俺は気がついた。
確かにこの世界には各国に1人は聖女が存在する。だが、国として認められてない国に聖女はいない。その対象となる国はエルフ族が中心として活動している【エルフの国】だけだ。
「なるほど……【エルフの国】なら結界がありますし、納得です」
「あ、ああ、そうなんだよ。エルフの国から来たんだよ」
「珍しいこともあるのね。エルフの国の人なんて初めて見た」
【エルフの国】の人は基本的に外の世界に出ることがない。噂によると【エルフの国】には何もしなくても勝手に実を成す作物があり、魔物が存在しない夢の楽園らしい。
だから、わざわざ魔物がいる危険な外の世界には出たりしないらしい。
「エルフの国ってどんなだったの?」
「えっと……家から出ずにボタン1つで食べ物が買えて、馬車の何十倍の速度が出る乗り物があったり、あと魔物とかいうのも居なかった。平和そのものだ」
クレアが訊ねると青年は噂にあったことだけでなく、技術などが大きく異なっていることなどを教えてくれた。
そんな国があるというのなら、俺は是非とも行ってみたいものだと思った。
「じゃあ、色々教えてくれてありがとな」
「いえ、こちらこそ教えて戴いてありがとうございます」
青年は扉を開けて医務室から出て行った。
あっ――――――――
「名前、聞いてなかったですね」
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