第12話 聖女だって女の子だもん!


  目を覚ますと俺は見知らぬ天井と俺の手を握るフレイヤが見えた。


「おはようございます。ティア様」

「……おはようございます」


 起き上がって辺りを見回すと何処かの部屋にいることがわかった。

 俺はいったいどうしたんだっけ……?


「魔力切れで倒れたので、とりあえずこちらに運びました」

「そっか……」


 俺は魔力切れで倒れたのか。それでフレイヤがここまで……


「それで、ここは……?」

「先ほどティア様が助けた少女の家です。すぐにでも戻られるので、気をつけてくださいね」


 フレイヤの言葉を聞くと階段から足音がしたので俺は軽く咳払いをして聖女モードに切り替える。


「あっ、お目覚めになられたのですね。こちら温かいお茶になります」


 部屋に入ってきたのは先ほど王子と戦っていた赤い髪をした少女だった。

 年齢は……15歳ってところか?


「ありがとうございます。傷はどうですか? 途中で意識が途切れてしまったので覚えてないのですが……」

「はい、この通りすっかり治りました。これもティア様のおかげです」


 俺は少女からお茶を受け取ると少女は傷があった場所を見せてきた。たしかに傷口はふさがり、痕も残っていなかった。


「それならよかったです。えっと……」

「クレアです。クレア・ラミレス。先ほどは私を庇って戴き、ありがとうございました」

「そんな! 当然のことをしただけです。クレアさんが謝る必要はないのですよ」


 むしろ俺がお礼を言わせてほしい。クレアのおかげで王子を蔑んだ目で憐れむことができたのだから。


 それからクレアと軽いお話をすると、クレアも冒険者学園に入学するらしいのだが、それで思い出した。



 ――――――今日、入学式じゃん。





「先生! 遅刻です!」

「ティア様、失礼しますッ!!」


 フレイヤは俺を抱き上げると急いで部屋を出た。クレアも急いで部屋を出ていく俺たちを見て走り出した。


 この際だからハッキリ言おう。既に遅刻確定だ。走っても間に合わない。なので着いたら土下座だ。


 こういうのは素直に謝れば意外と許されるものだ。言い訳する方がよくない。男らしく遅刻したことを認めるのだ。


「ティア様、学園長がお呼びです」

「……えっ?」




 ◇◇◇




「遅刻して申し訳ありませんでした!」

「「「ちょっ!?」」」


 学園長室に入るなり突然ジャンピング土下座を決めた俺に驚く三人。フレイヤは俺を立たせてソファーに座らせた。

 そして、フレイヤによる無言の圧が学園長室を包み込んだ。


「ごほんっ」


 学園長の咳払いが入った。これから真剣なお話に入るのだろうと、緊張感が走る。


「ごほんっ、ごほんっ」


 再び学園長の咳払いが入る。ここから学園長の謎の行動が始まったのだ。


 学園長は何度も咳払いのみをひたすら繰り返していた。

 これはきっと何かの病気なのだろうと思い、俺は長い目で見ることにした。


 そして、二百五十四回目の咳払いが入ろうとする。


「ごほんっ……」

「大丈夫ですか? お身体が悪いのでしたら明日にでも……」

「ああ、いやっ、大丈夫だ。ただタイミングを失ってしまっただけだ」


 おい、表出ろや。


 学園長だろうが関係ない。貴重な時間を咳払いで潰したこのクソジジイには天罰を与えてやらないと俺の気が済まないぞ。


「まずはこれだ。魔力を回復できる。飲みたまえ」

「ありがとうございます」


 俺は学園長からとても小さな小瓶を受け取って、中に入っている液体を飲み干す。


「げっぷ……」


 もらった液体があまりにも不味すぎて、思わずゲップが出てしまった。かなり不味かったが、先ほど失ったはずの魔力が全て回復していた。

 それはとても素晴らしいのだが……


「「「…………」」」




 ――――何故か三人の視線が俺に集まる。





 俺はポケットからハンカチを取り出して口の周りを丁寧に拭い、心を落ち着かせる。

 軽く息を整えたところで――――――




「【岩弾丸ストーン・バレット】ッ!」

「ヘブッ!」


 【岩弾丸】が学園長に炸裂する。

 いやっ、聖女は表情を外に出してはいけないとかエレノア言ってたけど、今回ばかりは許してほしい。


 このクソジジイのせいで転生して以来、初めて顔が真っ赤に染まったのだから――――


「っ!!」


 俺は恥ずかしさのあまりに学園長室を飛び出して、トイレに引きこもったのだった。




「……ちにたい」






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