第11話 王子様は素振りがお得意なんです♪
「死ねェ!!」
王子が剣を振り下ろす。俺は土魔法で壁を作り、剣から身を守る。
「オラァ! フンッ! セイヤァ!」
王子の剣が何度も何度も振り下ろされるが、俺はただひたすら土魔法で防御する。
すると王子が1人で素振りをしているように見えてきた。
実際、こんなことしなくてもコイツぐらいなら瞬殺できる。だが、それでは殺すという意思を持って殺したということになってしまう。
だから俺がすることは魔法で反撃に出たら間違えて殺してしまったと周囲の人物に認識させることだ。
そのためにはまず、ひたすら追い詰められなければならない。
次に、俺は回復魔法が使えないという状況を作らなければならない。
理由は単純に王子に大ダメージを与えたあとで回復魔法を使わなかったという悪印象を残さないためだ。
魔力が切れてしまえば回復魔法は使えなかったという事実が残る。
こんな俺でも一応聖女だ。国民からの評判は圧倒的。それに対して王子の評判はドン底ときた。
そうなれば俺を責める人も少ないだろうし、周囲の認識も「王子が悪かった」となるだろう。
「さっきから岩ばかり! どうした! そろそろ魔力も尽きるだろ! お前に勝ち目はねーからさっさと諦めろ!」
うるせぇ! テメぇは黙って素振りでもしてろッ! もうすぐだ。あと一回!
最後に岩で防いだ直後に土魔法で作った剣に風魔法を乗せて、剣を強靭化する。
そして、王子の一撃に合わせて【転移】を使い、王子の後ろに移動して王子に終わりの一撃を―――――――
「マイケル様! また練習をサボって! 今度こそ逃がしませんよ!」
「げっ!?」
俺が最後の一撃を加えようとした瞬間に王国の騎士団が駆けつけて来てしまい、俺は咄嗟に魔法を解除して剣を何処かに飛ばした。
さすがに王国の騎士団に目撃されるのは部が悪い。
というか、王子の名前ってマイケルなのか。随分ありふれてそうな名前してんな。
……おっと、そんなこと考えてる暇なかった。
「貴様っ、なにをするッ!?」
「騎士様! 王子様を捕まえましたので早くこちらに!」
コイツは俺が毎日、どれだけのバケツを運んでると思ってるんだ。その程度ではビクともしないぞ。
「おいヤメロォ! 聖女には人の心がないのか!」
フッ、俺はお前が苦しんでる姿を見ることで喜びを得られる特殊な人間なのさ。もっと喚き、苦しむがいい。
そして俺をもっと楽しませてくれよォ!
……ちょっと取り乱したな。変なオーラが外に出てしまったようだ。騎士団が若干引いてる。
「早く王子様を連れて行ってください!」
「「は、はい!」」
騎士団は王子を捕らえ、紐で縛って肩に担いだ。
お前ら、それで良いのか。ソイツ仮にも王子様だぞ。そんな扱いして良かったなら先に言ってくれよ。言ってくれればボコボコにできたじゃん。王子相手だから手を抜いてやったってのに。
「ティア様、ご迷惑をおかけしました!」
「いえ、気にしないでください」
騎士団の人に愛想笑いを返したあと、王子の方を向き、ニッコリとしたどす黒い笑顔で見つめてこう言ってやった。
「頑張ってくださいね。
王子様お得意の……す・ぶ・り♡」
王子が凍りつくと、騎士団の人は王子を担いでそのまま王宮へと帰って行った。
俺は先ほどまでクソ王子に虐められていた迷える子羊に歩みより、回復魔法をかける。
「大丈夫ですか? ゆっくり休んでください」
「はい、ありがとうございます」
回復魔法を使っていると徐々に視界が悪くなって意識が遠ざかって行く。
「……あれ? ちょっと具合が……」
俺はその場にパタリと倒れた――――――
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