第10話 王子は……殺すか!


 あれから朝食を食べ、エレノアたちと共に【転移】で王都までやってきた。


「あっ、かわいい」

「そうですね。じゃあ、これにしましょう。エドワード」

「はいよ」


 エレノアに名前を呼ばれただけで財布からお金を取り出す英雄。その姿はかつての耀かしい姿を失った錆びた鉄屑のように見えた。


 ちなみに俺とエレノアが選んだのは二種類の魔石が埋め込まれた色違いのペンダントだ。


 エレノアのペンダントは翠色と水色が鮮やかに魔石が埋め込まれている。


 それに対して、俺のペンダントは黄色と紫色が夜空を照らす三日月のように形を成した魔石が埋め込まれたペンダントだ。



 なんでも魔石に対応した属性の魔法を使うと魔法の効力が少しだけ上がるらしい。


 これほどのモノが、いったいどれだけ掛かるのか。俺は知りたくもなかった。


 


 ◇◇◇



 高級ペンダントを(エドワードの金で)買ったあと、俺は二人を【転移】で家に送り届けた。

 冒険者学園には基本的に関係者以外立ち入り禁止だ。フレイヤに関してはエレノアが上手く言いくるめてくれたらしい。俺が次期聖女であるということを考えれば、それぐらいは容易にできるだろう。


「ティア様、行きますよ」

「はい、ただいま」


 俺はフレイヤの横を歩く。寮の部屋以外では聖女としてやって行くので、これからは少々堅苦しい日々を送ることになるだろう。


「アレは……なんでしょうか?」

「人集りが出来てますね。まだ時間もありますし、見ていきますか?」

「そうですね」


 俺とフレイヤは近くにあった人集りに突撃する。人集りと言っても、範囲が広いためか、意外と見易かった。


「さっきまでの勢いはどうしたッ! その程度の実力でこの俺様に歯向かったのか!?」


 人集りの中心部を覗いて見ると、1人の少女と少年が剣を交えていた。

 だが、少女の方は身体中の至るところに傷があり、劣勢に見える。


「……王子ですね」


 フレイヤの声に頷く。間違えなく少年の方は王子だ。俺の記憶が正しければ王子は王国の騎士団に最年少で入隊した優秀な王子で、性格は国王譲りのクズだから…………


 ……考えてたらウザくなってきたな。



 コイツはここで殺すか。



「なかなかかわいい面してるし、お前は俺様が可愛がってやるよ」


 少女の剣を弾くと王子は少女の顔にその汚ならしい手で触れようとする。

 これは好都合だし、間違えて殺しちゃった作戦でいこう。

 深呼吸をして心を落ち着かせる。聖女スイッチだ。


「やめなさいッ!!」


 幼くも可愛らしい声が響いた。

 別にそんなつもりはなかったのだが、ここまで響くと少し恥ずかしい。


「一国の王子ともあろう者が民を弄ぶなんて許されないことです。今すぐ立ち去りなさい!」

「聖女風情が……お前にもわからせてやるよ。どちらが本当の権力者かってヤツをな! 平民に紛れたゴミが!」


 コイツ父親の遺伝をそのまま受け継いでるじゃん。もうコイツ殺しただけで満足しそうだわ。

 そしたら国王が……いやっ、ダメだな。アイツを殺さないと気が済まない。アイツも殺そう。


「権力に振り回されてるような方は王家の器ではありません。どうしてもやりたいというなら相手をしてあげますよ」


 さっさと来いやオラァ!! テメぇごときこの俺が粉砕してやるよ!


「調子に乗りやがって! 死ねぇ!!」





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