第1章 学園生活と夢の少女と聖女の武器

第9話 冒険者学園入学式 前夜


 初めて魔法が使ってから早くも四年が経過した。

 四属性もあった魔法も今や、すっかり習得して自由自在に扱えるまで成長していた。


「【岩弾丸ストーン・バレット】!」

「ヘブッ!?」


 大きな岩が我らの英雄エドワードを吹き飛ばす。


 先ほどまでは「娘の魔法ぐらい斬れるッ!」などとほざいていたのに、それが今はこのザマだ。


「合格です。四年間、本当に頑張りましたね」

「これも先生のおかげです」


 この四年でフレイヤの印象もだいぶ変わった。最初の頃は聖女相手だからと無駄に緊張していたのに、今は1人の女の子として話してくれるようになった。

 嬉しいのか、悲しいのか、とても絶妙な気持ちになった。


「明日は忙しいですから、今日はゆっくりしてくださいね」

「はいっ」


 明日は冒険者学園の入学式がある。「なぜ聖女が冒険者学園へ?」と思われるが、初等科に通うよりも冒険者学園に通った方が良いという判断がフレイヤから下されたのだ。


 言い方は悪いが、冒険者学園は魔法の練習場だ。

 特に回復系の魔法は怪我人がいないと使えない。フレイヤはその辺も考慮したのだろう。


 あと全寮制の冒険者学園に1人で通わせるのは不安だとエレノアが言うので、特別に契約期間を延長してフレイヤがお供することになった。


 四年間も一緒に過ごしてきた仲だ。フレイヤは勉強の時こそ真面目になるが、勉強の時以外では普通に話し掛けてくる。


 最近じゃ休日にファッション雑誌を買ってきて二人で読む仲だ。


 初めてファッション雑誌を見た時は微塵も興味なかったのだが、気がついたら嵌まってた。

 毎週のようにファッション雑誌を買って来るように言ってた王女様の気持ちがわかった気がする。


「これなんか可愛いですね」

「お母様は少し古いです。最近はこういうのです」


 フレイヤがファッション雑誌を勧めたからか、エレノアもすっかり興味を持つようになった。聖女といえども、やはり女性なのだろう。


「それのどこが良いんだ? 俺にはさっぱりわからん」

「「かわいいじゃないですか」」


 エレノアと声が重なった。俺とエレノアは互いを見合うと、同時に頷き合った。

 そして、エドワードの方を見て、二人で歩み寄る。


「お父様、これを……」

「買っていただけますか?」


 エレノアと二人でにっこりとした顔でエドワードを見つめる。


 エドワードなにも抵抗せずに明日王都へ行った時に買ってあげると言うと、エレノアは鼻歌を歌いながら風呂へと向かって行ったので、俺はエレノアを追いかけた。




「……大変ですね」

「これぐらい安いもんさ。ティアにはプレゼントとか誕生日の時ぐらいしか出来なかったしな」

「そうですか。……そのうち『お父様の服と一緒に洗濯しないでくださいッ!』って言い始めますよ」


「ヤメロッ! 俺の天使がそんなこと言うわけがないッ!」

「……これだからは」



 ◇◇◇



 翌朝、いつものように日が昇る前に起きて教会の横にあるお墓の掃除を行う。

 始めた当初はダルかったというのに、今やすっかり馴染んでしまった習慣だ。風邪を引いた日とか墓掃除が出来ない日は一日中落ち着かず、逆に疲れた。


 冒険者学園ではどうするか悩んだのだが、俺は土魔法である【転移】を習得したので、その点は問題ない。

 今日だって王都まで【転移】で行くつもりだし、今までフレイヤの授業で何度も往復してるから問題ない。


「こんなもんですね」


 墓掃除を終えた俺は家へと戻る。





 ◇◇◇



 家へと繋がる門の前。この時期はサクラが咲いているので、つい立ち止まってしまう。


 最近、俺は同じ夢を見るのだ。


 刀を持った金髪の少女がサクラの木の下で誰かと戦い、敗れる夢を。


 前世で見た夢をまるで別人の視点から見たような夢を見るのだ。


「あの夢は、いったい何なのでしょうか?」


 そんな疑問を持ちながらも、俺は門を開き、家へと入ったのだった。




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