第8話 ティア、魔法を教わる
「いいか、二人とも。落ち着いて聞けよ」
今日から家庭教師による魔法の授業が始まる……予定だった。だが、今朝になって1つ問題が発生した。
「講師の人が逃げた」
「「えっ?」」
講師の人が逃げる……? なにしてんの? 仮にも俺、次期聖女様だぞ? 捨てて良いものじゃないだろ。この国の未来が掛かってんだぞ。
お前みたいなヤツのせいで国王が『あっさり死ぬ』か『ゆっくりジワジワと死ぬ』かが変わるんだぞ。わかってんのか?
「でだ。代わりの人が今日来るらしい。名前はフレイヤちゃんだったかな? 結構若いらしい。なんでも今回が初めてだとか……」
おい、ベテランの代わりがビギナーってどうなってんだよ。だいたいソイツ、俺が適正を持ってる魔導書読めないだろ。光属性はエレノアがいるから良しとしても、他の属性とかどうするんだよ。
「まあ、来てくれるならそれでいいよな?」
くそっ、聖女という立場が俺の邪魔を!
文句を言いたいが、エレノアが怖い。どうすれば……
「……迷える子羊を救うことができるなら、私はかまいません」
『国王を殺すことができるなら俺はかまわない』というのを聖女っぽく言ってみると何故かエレノアが涙を溢した。
俺って、そんなに問題児だったの……?
◇◇◇
「はじめまして! ふ、フレイヤと申します!」
金髪に紫色の瞳、そして無駄にデカい胸ときた……コイツアレだ。イズの刺客だわ。その『大きいけど絶妙にイズより小さい程度の胸』が証拠だ。
俺をうまく利用しようってか? 利用できるもんなら利用してみせろよ。俺も存分に利用させてもらうからな。
「ティア様、さっそくですが魔法の練習を……」
「はいっ」
俺はエレノアから渡された体操服という運動着に着替え、フレイヤの待つ庭へと向かう。
着替える前に聞いたところ、魔法は専用の魔法陣を頭で組み立てることで使うのではなく、フワッとしたイメージに魔力を注ぐことで使うことができるらしい。
ずっと数え切れないほどの魔法陣覚えるものだと思ってたから正直助かった。
「いいですか? 魔法使うことも運動です。なので準備体操をします」
そうだな。準備運動は大事だもんな。
ああ、前世で準備運動をしないでターゲットを殺しに行った次の日はとてつもない筋肉痛に苦しめられたな。あの頃は若かった……
「身体、柔らかいんですね」
「そうですか?」
「はい、そこまで柔らかい人は初めて見ました」
前世でもこれぐらいは普通だったから、むしろ今世は硬い方だとばかり思ってた。仕事が終わったら逃げないといけないから身体が柔らかくないと逃げにくいしな。
軽い準備運動を済ませたあと、俺はフレイヤから魔法を教わることとなった。
「まずは魔力操作です。これができないと魔法は使えません。自分の胸に手を当てて魔力を感じとってください」
言われた通りに手を胸に当て、魔力を感じようとするが、魔力というのがどういうものかわからず、ただ心臓が鼓動を打ってることしかわからなかった。
俺が首を傾げているとフレイヤが俺の右手を握った。
「これが魔力ですよ。これと同じものを探してください」
フレイヤから送られてきた魔力はとても温かくて安らぎを与えてくれるようなものだった。
魔力というものを理解した俺は自分の体内から魔力を探り出す。
「……ありました」
これが俺の魔力……なんか血液みたいだな。
「ではその魔力を外から掴むような形で手に集めてみてください」
言われた通りに魔力を手に集めると手がとても温かいものに包まれるような感触がした。
「そしたらティア様が使える属性……光、闇、風、土のどれでも良いので、どのように魔法が使いたいのかをイメージして……」
今回イメージするのは『風』だ。全てを吹き飛ばすほどの強いイメージ……それらを圧縮して―――――
「放ってくださいッ!」
「えいっ!」
地震のような強い揺れと何かが地面に破ぜたような音が響く。
この日、俺は初めて『魔法』というものを知ったのだった。
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