第7話 聖女だって日常を生きてます


「んっ……」

「ほら、入れよ」


 お前の力が強すぎて身体中痛いんだよ! やめんかッ!


 ……こんなことになるなら風呂なんて断っておけばよかったな。疲れていたから洗ってもらおうという考えをした俺が甘かった。

 やっぱりエレノアだよな。一緒に入ってて気分も良いし、洗いかた上手いし、前世では見られないところも見られるし。

 ……あれ? 別に俺って――――――




 



 だって男だぞ? 裸のつき合いも良いかもしれないが、基本は聖女やってんだから会話すること皆無じゃん。

 それに身体中真っ赤だし、お湯に浸かれないしで最悪だ。むしろ入らない方が良い。


「ティア、エドワードに身体は洗わせないようにね」

「うん、そうする……えっ!?」


 ふと横を見ると何故かエレノアがいた。

 なぜエレノアがここにッ!? さっき疲れたとか言って部屋に戻っただろッ!?


「ティア、ゆっくり入りましょうね」

「んっ!」


 エレノアが俺を抱えてお風呂に入れようとするが、俺は全身がヒリヒリしてお湯に触れただけで身体がピクリと震える。

 その様子を見たエレノアはエドワードを睨んだ。




「あっ……」


 1人の男の間抜けな声が風呂場に響く。


 おい、なんだよ。その「出ちゃった……」みたいな顔は。というか風呂が黄色くなってるんだがッ!? コイツ、マジでやったのかよ!?

 英雄のクセに聖女から睨まれたたけで失禁かよッ! お前、色々と酷いぞ!


「…………ティア、今晩はバーベキューですよ」

「やったー!」

「では、一緒に準備しましょうね?」

「はーいっ!」


 その場からそそくさと立ち去る俺とエレノア。1人残された英雄はその恥ずかしさからか風呂の中に顔を沈めた。




「ティア、ジャガイモの皮をいてください」

「はいっ」


 料理は俺とエレノアで作っているが、そのほとんどはエレノアが作っている。というのも、エレノアの料理速度が速すぎるのだ。


 例えば、俺が玉ねぎ1つをみじん切りにすると、エレノアは玉ねぎ2つと大根おろしを作っている。

 今だって、俺がジャガイモの皮を剥いてる隙に人参を切り終えて、庭にバーベキューセットを用意している。


 エレノア曰く、『馴れ』だそうだ。さすがにあの速度は馴れとは言わないと思うが……


「切り終えましたか?」


 子どもらしく、にっこりとした顔でこくりと頷く。


「では焼きましょうか」

「はーいっ!」



 それからバーベキューを食べ終えるものの、臭いが身体に染み付いてしまったので、俺とエレノアはもう一度風呂に身体を洗いに向かった。

 すると、そこには1人の男が寂しそうに全裸で体育座りをしていた。


 その男の名は――――――





 エドワード・ブリュンヒルデ』






 俺たちはいったい何を見せられているのだろうか……?




 

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