第45話 ねこハート

(そ……、そっか、ローズはフローラで、フローラはローズなんだっけ…)

混乱する自分をひとまず落ち着かせると、シーツの端を無防備なフローラの上にそっと被せた。

(さて…このあとどうしよう…)


起こす?

起こさない?


(いやいや私、服無いし…。どうやっても服は借りなきゃ帰れないし…)

よし、起こそう!


上から、フローラの横顔をそっと見つめた。

起きている時のフローラでは気づかなかったけれど、目の端の睫毛が中央よりもより長く、少し外側にカールして、肌は白く艶めいていて、まるで磁器のように美しかった。

「可愛い……」


思わず、見とれて呟いた繭の声に、

「…んー…」

フローラが反応した。

やがて、目をわずかに開き、

「……もも……。あ、違う……繭だ。繭、おはよー」

フローラが繭の方へ体を向けた。


(あ、は、裸…)

フローラの形のいい胸や、しなやかな腰が、一気に繭の視界でまぶしく跳ねた。

思わず視線を逸らした繭に、

「さっきはあんなに激しく愛し合ったのに、今更また照れちゃうの?」

からかうように、フローラが繭の膝の辺りに頰をのせて笑った。


「だ、だ、だ、だって、それは、ももの時でしょ。猫の時はお互いオトナだし…その…デートも重ねて…だけど、あの、フローラとは、何て言うか…、まだよく知らないし…、つき合って…ないし…」

「私がローズなのに?」

「ごめんなさい…」

繭が後ろ手に手をついて、フローラから距離をとった。

「確かにね。これ以上して、嫌われるのも退学になるのも困るわね」

そう言って、フローラは顔をもたげた。


「服は、ほとんど着てない服いっぱいあるから。下着は使い捨てのインナーをこの間買ったから、それを使って。サンダルは、これが合うと思う」

「あ、ありがと…」

繭が着替えている間、フローラは横になったままその様子を見るともなしに見ていたけれど、ふいに起き上がると、背後から繭を抱きしめた。


「私が、繭の心の中の悲しみも、ももちゃんの心の痛みも、全部全部癒してあげる。繭にも、ももちゃんにもヒドイ事したかもしれない。でも、私が一生をかけて、二人が手にするはずだったものを、与えてあげたいの!」

「…………そんなの……」

繭は呟いて、俯いた。


(そんなの…、そんな王女様の気まぐれみたいなもののせいで、私は帰る場所すら失ったっていうのに…)

繭は、肩にかかったフローラの腕を無言で振りほどいた。

「……繭……?」

「ゴメン。これ、借りてくね」

振り返らず、繭はフローラに背を向けたまま、部屋を後にした。

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