第42話 さよなら大好きニャ人

 花ちゃんと、ももとして会うのは久しぶりだった。

 マシューは、綺麗にシャンプーしてくれて、仕上げに爪も切ってくれた。

「ニャー(何かちょっとキンチョーする)」

 庭先で花を待つ間、ももが頰を紅潮させてマシューを見上げた。

「ま、そんなもんかもね」

 二人で一言、二言、会話している時だった。


「ごめんねー」

 手を振り、坂を登って来る花の姿が見えた。

(あっ、花ちゃんだ)

 嬉しくて嬉しくて、首を上げてソワソワ体を揺らす。


 と。


 少し離れた場所に、タクシーが一台止まり、中から一人の女性がゆっくりと降りて来て、

「あー、間に合った」

 マシューの横に、並ぶ様に立った。

「ニャッ?(何で?)」

「えっ? ウソ」

 ももとマシューは、声を上げて顔を見合わせた。


 そこに居たのは、フローラだった。

 だけでなく。

 フローラは、一匹の白い猫を抱いていた。ももによく似ていて、肢にも、そこだけ靴を履いた様な焦げ茶色の毛があった。


「遅くなっちゃったー。真中さん、ありがとうね。ずっと面倒見てもらって。おかげでゆっくり出来たわ」

 花も、やって来た。

「あら、フローラ•クルーさんも一緒なの? こんばん……は」

 花は何かに気づいた様に、二人と二匹を見比べて、視線をくるくると動かしていった。

「あらっヤダ、ももちゃんにそっくり……。あっ、わかったわっ」

 花が笑って、手をパチンと打った。

「私を試すつもりなんでしょう、あなたたち」


 マシューが、何か言おうとするのを遮って、

「ハイ、そうです。どっちが本物のももちゃんか、わかりますか?」

 フローラが進み出た。

「そんなの、わかるに決まってるじゃない」

 花の言葉に、ももとマシューは、ほっと胸を撫で下ろした。


「ええとね…」

 花は、二匹の猫をかわるがわる、もう一度じっくりと見比べた。

 そして、

「こっち! こっちが私のももちゃんよ!」


 そう言って花が抱き上げたのは。

 フローラが抱いていた白猫の方だった。

「ニャ——!(えーっうっそぉー!)」

「せ、先生。もう一度、改めてちゃんと見た方が良くないですか⁉︎」

 マシューがグッとももを花に近づけて、声を裏返した。


 その声に、花はもう一度、二匹の猫を一匹ずつ丁寧に見比べ、

「……うん。やっぱりこっち! こっちの、この子で間違いないわ」

 ももではないネコを頬ずりしながら、決を下した。

 そしてそれは、決してくつがえることは無かった。

「………」

 ももはもう、鳴き方すら忘れて、花をただただ見つめるだけだった。


 花は、白い猫を抱いて、去って行った。

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