第41話 人生はあニャたが思うほど悪くニャい

「さ、行こっか」

 二人が去って、しばらくしてフローラがももに声をかけた。

「ニャー(どこへ?)」




 -猫の王様の城-


『王女様がお戻りになられました』

『王女様』

『お帰りなさいませ』


 ふたりの姿を見て、家臣達が立ち騒ぎ出した。


 フローラに抱かれたももが、フローラを見上げた。

「ニャニャ(ここ、王様のお城でしょ? 王女様って、王様のお姫様が帰られたの?)」

「そうね」

 フローラの言葉に、ももがキョロキョロと見回した。

 城門が開かれ、城内に人間の姿のまま進んでゆくフローラに、さすがにも、焦り始めた。

「ニャニャ(ねえ、人間の姿のままで…。大丈夫なの?)」

 けれどフローラは、ももに一度視線を移しただけで、もう何も言わなかった。



 やがて。

 猫の王様の前で、フローラは歩を止めた。

「来たか。で、どうだ。何か学ぶことはあったか」

 王様がフローラに声をかけた。


(えっ)


「はい。やはり、猫と人間は互いに尊重し合い、手を携えて生きていくべきだと改めて思い至りました。そして…」

 フローラの声が、凛々りんりんと王城に響き渡っていった。

「そして、それに気づかせてくれたのが、今ここに居る、ももさんに他なりません」


(へ?)


「さ、ももちゃん」

 フローラはゆっくりと、ももを抱きおろした。

 王様がゆっくりと手を上下させた。

 フローラの姿から、猫に戻ったローズの姿がそこに現れた。

 侍女達が左右から、脱いだドレスを素早く回収する。


「ままま、まさかまさか、王女…さまって……」

「そ、私。ももちゃんって本当に鈍感なのね」

 ローズが、もものおでこに優しくキスをした。

 そしてローズは正面に向き直り、

「私が即位し、国王になったとき、その妻…いえ、王妃にと望むのは、このももさんだけです。ももさん以外、王妃に迎えるつもりはありません」

 そう、きっぱりと言い切った。


(え? 王妃?)


 ももが、ローズを見つめた。

 ローズはももの視線に気づくと、口元に笑みを浮かべた。

「私にはももちゃんが必要なのよ」

「………」

「必要なの」



 「マシューには連絡してあるから」


 そう言ってローズは、その夜ももを実家まで送ってくれた。




 -花ちゃんに振られた-

 でも直後に。

 -ローズにプロポーズっぽい事を言われた-

(しかも、ローズが王女様だったなんて…ってゆーか人間の姿がフローラで…)


 それから……、それから……。

 フローラが最後に言った一言を思い出して、深く長いため息をついた。



「あのね…。マシューも星香もねねも、先生と繭が恋人だった事を少しずつ忘れていくから…」



(そう)

 私と花ちゃんの間にはもう。

 一欠片ひとかけらの思い出すら、残る事はないのだ。

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