第31話 Only You

 -すみれ寮 マシューの部屋-


「マシュー、ありがとぉー」

 繭がマシューを抱きしめて、そのままマシューの膝の上へ体を預けていった。

「いいんだよ。父親の話だと、ローズの飼い主の桐島さん? その人に正式に依頼されたって言ってたよ。やりがいのある仕事だって。だから全て結果オーライだよ」

 マシューが繭の背へ手を回し、ポンポンと叩いた。


「ローズや弱った猫ちゃんたちは、ひとまず元気になるまで入院するみたい。その後は、ローズは桐島さんの妹さんと暮らす事になるって、あの家で」

「そうなの⁉︎」

 ぴょこんと離れて、繭がマシューを見つめた。

「その人だったら私、知ってる。ローズのことも、私の事も、すっごい可愛がってくれるの」

「ま、今度はきちんとした形で、法的にローズがあの家で安心して暮らせるようにするって」

「えーん、マシュー!」

 もう一度繭は、マシューに手を伸ばしていった。





 -二週間後 2-B教室-


「ええと、皆さん。こちらが、留学生のフローラ•クルーさんです。本当は英語科で担任の西田先生が紹介するはずでしたけど…」

 花が語る間。

 その声をかき消すほどの歓声とどよめきで、教室はパニック状態におちいった。


 ねねがイギリスへ旅立って、遅れること二週間。

 姉妹校から来たフローラは、一瞬にして日本の女の子達のハートを鷲掴みにした。


 それほど。

 それほどに、花の横に立つ少女は美しかった。

 金髪ブロンドの、ふさふさとして少し巻いたような長い髪と。

 青い瞳に、白い肌。

 そして、濃いアイラインを引いたように見えるほどの豊かな睫毛が、彼女の大きな瞳をふちどっていた。そして、唇は小さく先端がふっくら色づいていて、まるでバラの花びらのようだった。


「はい、ちょっと静かに。では、フローラさん、自己紹介してくれますか」

 花の言葉に、

「ハイ」

 と、フローラは返事をして。

 けれど、その足は。

 その美しい足は、なぜか真っ直ぐ、何の迷いも無く歩を運び、教室の中央まで来た。


(え?)

 繭が、目を上げた。

「ずっとずっと探してたの。やっと見つけた。私の可愛い恋人」

 そう言って、フローラは繭を見つめて微笑わらった。

 そして小首を傾げ、何かを尋ねるように腰をかがめると、繭の唇にその花びらのような唇を、ゆっくり静かに、重ねていった。


フローラは、優しく繭に、キスをした。

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